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僕の村は釣り日和9~秘密兵器

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 その夜、僕は嫌な気分で天気予報を聞いていた。
「台風よ、逸れろーっ!」
 僕はテレビの画面に向かってほえた。
「仕方ないじゃない。自然が相手なんだから」
 母もそう言うが、内心は穏やかじゃないはずだ。実は両親もまた、釜の主を僕たちが釣り上げることを楽しみにしているのだ。
 プルルルルル……。
 そんな時、電話が鳴った。
 僕は東海林君だと思って、慌てて受話器を手にした。
「もしもし、桑原?」
「小野さん?」
 声の主は意外にも小野さんだった。
「ヤバイよ。天気予報、聞いた?」
「うん。台風が来そうだね」
「台風が来たら、渓流は無理だよね?」
「そりゃ、無理だ。鉄砲水は危ないからね」
 笹熊川も鬼女沢も上流部に行けば行くほど川幅は狭まり、切通しも多くなる。そのようなところでは急な増水による鉄砲水が危ない。
「禁漁まで時間がないよ」
 小野さんの声はあせっていた。じれる様子が受話器越しに伝わってくる。
「でも、命には代えられないよ」
「そりゃ、そうだけどさ。悔しいじゃん……」
 受話器の向こうで、唇をかみ締める小野さんの姿が見えた。
 もし、今回の釜の主釣りが中止になれば、それは僕だって悔しい。いや、それ以上に、東海林君が悔しがるだろう。今度の土日が今シーズン最後のチャンスなのだ。
「ところで、網はできた?」
「もちろん、バッチリよ」
「よっしゃ!」
 今はできるだけの準備を入念に進めるしかない。
「じゃあ、ついでにテルテル坊主も作っておいてくれよ」
「ふふっ、わかったわ」
 プププ……。
 受話器に電子音が流れた。
「いけね、キャッチだ。ごめん、切るよ。明日、学校でね。おやすみ」
「うん、おやすみ」
 僕は電話をキャッチホンに切り替えた。
「よう、俺だ」
「東海林君かぁ?」
「おい、『かぁ』はないだろ、『かぁ』は……。実は小野さんとラブラブな電話でもしてたりして……」
 僕は一瞬、心臓がドキンとした。東海林君は何て勘の鋭いひとなのだろうか。
「冗談言うなよ」
「ははは、悪い、悪い。実は天気予報のことでな」
「僕も電話しようと思っていたところなんだ」
 それにしても、東海林君の声はどこかあっけらかんとしている。台風が心配ではないのだろうか。
「さっき、お父さんに会ったんだ」
「えっ、じゃあ、あの……?」
「里まで下りてきたんだ」
「そうか……。それで?」