僕の村は釣り日和9~秘密兵器
僕はてっきり、あのモヒカン猿が東海林君に釜の主釣りの中止を諭しに来たのかと思った。だが、次の瞬間、東海林君からは意外な言葉が飛び出たのである。
「台風は逸れるぜ」
「えっ?」
「聞こえなかったのか? 台風は逸れると言ったんだ」
「何だって? 本当か、それは?」
「ああ、お父さんが言っていた。動物には野生の勘が働くらしい。よく、ナマズが暴れると地震が起こるって言うだろう」
「そ、そうか……!」
「大船に乗ったつもりでいろだってさ」
「わかった。早速、小野さんにも知らせてやらなきゃ。彼女、心配していたから……」
「やっぱり、電話していたな」
「あ……」
モヒカン猿の予言は当たった。熱帯低気圧は発達し、台風十号となったものの、進路を東寄りに大きく変え、日本列島に上陸することはなかったのである。船のカサゴ釣りならばいざ知らず、渓流ならば問題はない。
作品名:僕の村は釣り日和9~秘密兵器 作家名:栗原 峰幸