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僕の村は釣り日和9~秘密兵器

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 大きく竿を振りかぶったかと思うと、次の瞬間には、秘密兵器は対岸目がけてフルスイングで飛んでいった。ポチャリとルアーの着水音がした。波紋が消えるまで、しばらく待つ東海林さん。そして、ネチネチとヒナ鳥がもがくような演出をする。
 脚の付いたザラ?は、わずかな距離でオーバーな動きを演じながら、徐々に手前へと近づいてくる。
 足元から3メートルくらいのところだっただろうか。そこでもう一度、動きを確認しようと、ネチネチと動かし続けた時だった。
 突如として水面が割れ、夕映えに銀色の魚体が跳ねた。ザラ?は弾き飛ばされ、足元近くまで飛んできた。
「す、すげえ」
 東海林さんが息を飲んだ。
「今のは何?」
「ブラックバスだよ」
 僕は先程の一瞬の光景を見たことがある。それは父親が持っている、開高健という人が書いた「オーパ!」という本の中に載っていた写真とそっくりな光景だったのだ。
 その写真はトクナレという魚がルアーを弾き飛ばす写真で、強烈な印象を僕に与えた。あの写真と同じ興奮が身近なため池で味わえるとは、思ってもみなかった。それにしても、まだため池にルアーを弾き飛ばすほどの大きなブラックバスがいたとは……。
「この秘密兵器には、とてつもない能力が隠されているかもしれない」
 東海林君がうなるように言った。
 僕の脳裏にはまだ、先程のブラックバスが跳ねた姿が焼き付いていた。興奮がまだ収まらないのだ。
「なあ、『オリジナル・ザラ』っていうルアーがあるから、このルアーの名前、『オレタチノ・ザラ?』にしないか?」
 東海林君が笑って言った。
「それってダジャレ?」
「悪いか?」
「ううん。いい、いい、サイコー」
 僕は東海林君の口からダジャレが飛び出すとは思わなかったので、正直なところ、ちょっとびっくりしたのだ。もっとクールなやつだと思っていただけに、より親しみが湧いて、嬉しかった。
「よっしゃー、『オレタチノ・ザラ?』で釜の主を釣り上げるぞーっ!」
 東海林君が雄叫びを上げた。
「おーっ!」
 僕がこぶしを振り上げる。
 遠くで「クワッ!」という動物の鳴き声が聞こえた。おそらく猿の鳴き声だ。それは、あのモヒカン猿に違いあるまい。

「天気予報をお知らせします。発達中の熱帯低気圧は今後も北上を続け、夜半には台風十号となる見込みです……」