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僕の村は釣り日和8~鬼女沢

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「今度、私の釣りにも付き合ってよ。一人で釣るのもなんだしさ」
「えっ?」
 僕の心臓がまたバクンと大きく脈打った。
「私は餌釣りだけどね。一緒に釣りをしてくれる人がいたらいいな、って」
「そりゃ、いいけどさ」
「じゃあ、明日の放課後、笹熊川の落合橋で集合ってことで。よろしくね、先生」
 小野さんは僕の手をポンと叩くと、立ち上がり、元気に小走りで駆けていった。僕はその姿を呆気に取られながら見送った。

 その晩、僕は居間で家族と語らっていた。
「まあ、釣りデートなんて、あんたらしいじゃない」
 母は上機嫌で笑った。
「デートなんてものじゃないよ。ただの釣りだよ、釣り」
 僕は急に気恥ずかしくなり、弁解をした。
「でも、それがきっかけになるってこともあるぞ」
 父までが冷やかす。
「小野さんって、あの活発な子でしょ? いいじゃないハキハキしていて。ちょっと、のんびり屋さんのあんたにはちょうどお似合いかもよ」
「もう、お母さん、やめてよ。そんなんじゃないってば話題変えようよ、話題」
 僕は両手を振り、二人の暴走を止めようとした。
「そういえば、お父さんも私と付き合う前、釣りに誘ったわよね。ニジマス釣り」
 母は思い出モードに入っている。
「そうだったなあ。イクラの餌はよかったけど、お母さん、ブドウ虫が触れなくてね。お父さんが餌を付けてあげたんだ。健也、お前も明日はちゃんと餌を付けてあげるんだぞ。ところで何を釣るんだ?」
「うーん。決まっていないけど、ウグイかオイカワかな」
 そういえば、小野さんと何を釣るかまで相談をしていなかった。初心者が釣るとなれば、ウグイかオイカワが妥当なところだろう。 
「じゃあ、餌はサシだな」
 父親がニヤッと笑った。サシとは要するにウジムシだ。釣り具店に行くと、小袋におが屑を入れて売っている。この村では釣り具を売っている杉本商店で買うことができる餌だ。
「それこそ、サシの正体を言ったら嫌われちゃうよ」
「て言うことは、やっぱり小野さんのことが好きなんだ?」
 母が茶々を入れた。父が笑う。僕はむくれながらも、こんな会話ができる家族であって本当によかったと思う。
 家族のだんらんが一段落して、僕は父の部屋へ行った。タックルボックスを見せてもらうためだ。いろいろなルアーを見て、あの釜の主を釣るルアーのヒントが欲しかった。
「勝手に見ていいよ」