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僕の村は釣り日和8~鬼女沢

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 僕だって同じだ。あまり良い頭ではないが、それでもフル回転させて、何とか、まだ見ぬ釜の主を釣り上げる方法を考えているのだ。ともあれ、今までの我々の常識ではかなう相手ではなさそうだ。普通の渓流釣りの概念を打ち破る必要がある。
「仕方ない、お互いもう少しアイデアを考えて練り直そう。禁漁まであまり日がないからな」
 そうだ。机の上で考えていても仕方がない。アイデアとはひょんなところから飛び出したりするものかもしれない。
 その日、東海林君は先に帰った。自分のタックルボックスを眺めてイメージを練り直すのだとか。
 僕は校庭でぼんやりと、みんなが遊ぶ姿を座って眺めていた。
「何、深刻そうな顔しているの?」
 僕に話しかけてきたのは小野さんだった。
「あ、ああ、別に」
「さっき、東海林君とヒソヒソ話をしていたでしょ。釜の主とか水鳥とか」
「何でもないよ」
 釜の主の話は東海林君と僕との秘密だ。そうおいそれと他人に話せる内容ではなかった。だから、小野さんへの返事は少しつっけんどんだったかもしれない。
「この前のメダカのこと、まだ怒ってる?」
 急に小野さんが声の調子を変えて聞いてきた。いつものはつらつとした声ではなく、どことなく女の子らしい声だ。振り返ると、小野さんの顔は泣きそうな程、不安な表情をしている。こんな小野さんを見るのは初めてだ。
「いや、怒ってなんかいないよ。あの時は僕もムキになり過ぎた。ごめんよ」
 僕はごく普通に笑って、そう言った。すると、小野さんの表情が急に晴れやかになり、「はあ」というため息が漏れるのが聞こえた。
「実はね、私も釣りをしたいなって思って、高田に相談したら、『女に魚が釣れるか』ってバカにされたのよ。それで悔しくてさ。でも、実際に釣ってみたら面白いじゃない。あのウグイ、初めて釣った魚なんだ」
「そうだったんだ。高田のやつに一泡吹かせたかったんだね」
「まあね」
 小野さんが僕の隣に座った。教室の机よりも、もっと距離の短い、ごく間近の距離。まるで服というか、肌と肌が密着しそうな距離だ。
 この時、不思議と僕の心臓はドッキン、ドッキンと高鳴っていた。手の指やつま先の末端まで脈打っている感じがする。それに、耳から頬、頭の中までが異様に熱い。
「ねえ、桑原は最近、ルアーをやっているんでしょ?」
「うん。東海林君と渓流によく行くよ」