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僕の村は釣り日和8~鬼女沢

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「本当ですか。そりゃ、良かった。来週明けにでも早速、課長に報告しておきます。いやー、本当に助かりますよ」
 皆瀬さんが照れを隠しながら笑った。そんな皆瀬さんを東海林君は薄笑いを浮かべながら見ている。
 母親が元気に働く姿が見たいのだろうとも思う。だが、それ以上に皆瀬さんと母親の関係が気になっているはずだ。僕が東海林君と同じ立場だったら、心境は複雑だろう。何せ父親の死後、間もなく、母親が男性と付き合おうというのだから。それを気にさせないのは、あのモヒカン猿の存在なのだろう。
「それじゃあ、私はこれで……」
 皆瀬さんが席を立った。みんなで皆瀬さんを見送る。皆瀬さんがワゴン車に乗り込む間際に東海林君が言った。
「これからもよろしくお願いします。それと、お父さんに認められるといいね」
「えっ?」
 皆瀬さんが拍子抜けしたような顔をした。東海林さんの母親もハッとしたような表情をして「正!」と叫んだ。だが、東海林さんはニターッと笑っている。皆瀬さんはそんな東海林君に、爽やかな笑顔を返した。
「来週の土曜日、また不見滝の釜の主に挑戦しよう。それまでに作戦を考えておいてくれ」
「まかせておいて」
 東海林君が親指を立てて、片目をつぶった。その仕草もまた、爽やかだった。
 そして、遠ざかるテールランプを見送った。
「僕もそろそろ帰るよ。今度、釜の主を釣る作戦会議を開こう」
「OK。あの頑固ジジイの鼻を明かしてやろうぜ」
 東海林君の表情は活き活きしていた。

 月曜日の放課後、東海林君と僕は二人で作戦会議を開いていた。もちろん、釜の主を釣る作戦会議である。
「トラウト用のルアーってスプーン、ミノー、スピナーくらいだもんな。あんまりバリエーションがないな」
 東海林君がぼやくように言った。
「確かにサイズや重さの違いくらいだね。それに比べてブラックバスのルアーはバリエーションが豊富だよね」
 僕は東海林君に同調する。
「何しろ、水鳥のヒナを飲み込むくらいの化け物が相手だからな。それに、あの頑固ジジイに攻め立てられてスレッカラシになっているだろうしなあ」
「三尺って言ったら、90センチくらいだよ。一尺が30センチだもん。湖だってそんな化け物サイズのイワナは珍しいと思うんだよね」
「水鳥かあ。水鳥ねえ」
 東海林君は腕組みをして目をつぶった。深く考え込むような顔をしている。