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僕の村は釣り日和8~鬼女沢

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 なるほど、子供をダシに使えば、東海林君の母親にも近づけるという寸法か。僕はそんなことを邪推した。
「まあまあ、こんなところでもなんですから、お茶でも」
 皆瀬さんも僕も東海林君の家に上がることにした。僕は電話を借りて、家に電話を入れた。
 考えてみれば、僕が東海林君の家に上がるのはこれが初めてかもしれない。
「お父さんの遺影ってどこだい?」
 すると東海林君の母親が「こっちよ」と案内してくれた。そこにはブラックバスを抱えて笑う、東海林君の父親の写真が飾られていた。言われてみれば、その目はどこかあのモヒカン猿に似ているかもしれない。
 遺影の脇には十字架と聖書が置かれている。それが横にある、古びた木目の仏壇と違和感なく融合しているところがすごい。亡くなった人を奉るというのは、仏教にしても、キリスト教にしても、荘厳な印象をもたらすものだ。
 僕はその写真に向かって自然に手を合わせた。背後でも静かに黙祷を捧げる皆瀬さんの気配がする。厳粛な時間だった。
 東海林君の父親に黙祷を捧げると、おばあさんがお茶とナスの漬物を出してくれた。
 皆瀬さんは早速、ナスの漬物に箸をつけている。
「いやー、おいしいですね。こんな物を毎日食べられて幸せだなあ」
「ほほほ、あんた、まだ独り身かえ?」
 おばあさんが笑いながら尋ねた。
「ええ、私は隣の持立市の出身でしてね。この村の安アパートで一人暮らしをしているんです。だから、こういうもの、めったに食べられないんですよ」
「正も懐いとるようだし、うちの秀美をもらってくれんかのう?」
 皆瀬さんが飲みかけたお茶をブーッと吹き出した。そしてゴホッ、ゴホッとむせる。
「お母さんったら!」
 東海林君の母親が血相を変えて、おばあさんをにらんだ。皆瀬さんはお茶が変なところに入ったらしく、まだむせている。
「いいんです、いいんです。秀美さんも旦那さんを亡くされた後で、ゆっくりと先のことなんか考える暇なんかなかったでしょうから」
 皆瀬さんが手を振りながら答えた。
(何だ。もうアタックしていたのかよ……) 
 僕は心の中でつぶやいた。
「それはそうと、村役場の非常勤職員の話はどうですか?」
 皆瀬さんが赤い顔をしながら、東海林さんの母親に尋ねた。
「ええ、その話でしたら、お引き受けしようかと思いまして」
 その途端、皆瀬さんの顔がほころんだ。