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僕の村は釣り日和8~鬼女沢

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 東海林君と見つめ合った後、モヒカン猿はまた茂みの中へと姿を隠した。
「おい、あの猿、じゃなかった、君のお父さんは何て言っていたんだい?」
 僕は思い切って、東海林君にそう尋ねてみた。
「ふふっ、『お前と協力して、あの釜の主を釣ってみせろ』だってさ」
 東海林君の口元がフッと笑った。そして、目は異様に光っている。釣り人だけが放つ、独特の光だ。
「君は猿と話ができるのかい?」
 皆瀬さんが口をポカーンと開けて尋ねた。まるで、目の前で手品でも見せられたかのようだ。
「あの猿ね、こいつのお父さんなんですよ」
「はあ?」
 僕の言葉に皆瀬さんはすっかり、混乱しているようだ。
 東海林君は皆瀬さんの方を向くと、ニヤッと笑って言った。
「おじさん、俺のお母さんのこと、気になっているでしょ?」
 皆瀬さんの顔が急に赤くなった。それは夕陽に照らされて赤く見えただけではない。
「な、何を言い出すんだ。急に」
「だって、お父さんが言っていたもん。お父さん、おじさんのこと『いいやつだ』って言っていたぜ」
 皆瀬さんが指で頬をかいた。目線は宙を泳いでいる。
「まったく、まいっちゃうなあ。君たちには……」

 その日は、皆瀬さんのワゴン車に自転車を積み、家まで送ってもらった。東海林君の家が母子家庭ということもあり、母親を心配させないためにも東海林君の家へまず向かった。
 東海林君を介して、あのモヒカン猿から聞いた話を聞けば、皆瀬さんにはそれなりの下心があるように思えたのだが。
「まあ、すみません。わざわざ送っていただいて。それに、皆瀬さんにはお世話になりっぱなしで……」
 東海林君の母親が丁寧に頭を下げた。東海林君も僕も、皆瀬さんに頭を下げる。
 僕が見るに、東海林君の母親はここのところ、見違えるほど元気になった。息子が村に慣れ、安心したのだろうか。それに、改めて綺麗な人だと思った。こんな人が母親だったら、東海林君も鼻が高いに違いない。しかし、東海林君は一見すると取っ付きにくいが、常に母親を気遣い、大切にする優しい人だ。僕はそんな東海林君が大好きだ。彼との友情は、僕にとってかけがえのない財産のようなものなのだ。
「いや、たまたま釣りで一緒になりましてね。でも子供たち同士であまり山奥まで行くのは危ないから、今度からおじさんが付いていってあげるよ」