小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

僕の村は釣り日和8~鬼女沢

INDEX|2ページ/12ページ|

次のページ前のページ
 

 どうやら又吉じいさんは、ルアーがお気に召さないらしい。
「ところで木っ端役人、こいつらに釜の主の話をしとらんだろうな?」
「いえ、まだ」
「かかか、まあ、したところで、ガキに釣れるような代物じゃあないて」
 又吉じいさんが僕たちを見下しながら、豪快に笑った。東海林君は少しムッとした表情をしている。
「釜の主って何ですか?」
 東海林君が敵意のこもった声色で尋ねた。
「もしかすると、お前さんがその西洋の道具で釣ろうってえのか? 無理だ、無理だ。やめとけ。わしが五年越しで狙っても釣れねえ大イワナじゃ」
「大イワナ!」
「そうよ。身の丈、三尺近くはあろうかっていう、稀に見る大イワナじゃ。わしは見た。あれは水鳥のヒナが滝壺で羽を休めた時じゃった。しばらく滝壺に身を浮かばせていたヒナの下に忍び寄る黒い影。次の瞬間、ヒナはイワナの胃袋の中よ」
「す、すげえ!」
 水鳥のヒナを丸呑みにするイワナの姿を想像するだけで、僕の心臓が高鳴った。それは恐れに近いものがあったかもしれない。イワナは警戒心が強い一方で、非常に貪欲な魚だ。よくヘビなどを食べる話は耳にする。
「ひひひ、恐れ入ったか。さあ、ガキの出る幕じゃねえ。帰った、帰った」
 又吉じいさんは両手で僕たちを払うようにする。
「おもしれえ……」
 東海林君がつぶやいた。
「釣らせてもらおうじゃねえか。その釜の主とやらを」
 東海林君の目は熱く燃えていた。この目は竜山湖で大きなブラックバスを掛け、ファイトしていた時の、あの目だ。おそらく、彼の中で何かのスイッチが入ったのだろう。それは大イワナへの挑戦状でもあり、又吉じいさんへの挑戦状でもあった。
「かかかっ。笑わせてくれるわ。わしが五年がかりで狙っても釣れんのだぞ。西洋かぶれのガキどもに釣れるわけがなかろうが」

 それから僕たちは滝壺へ向けてルアーを投げ続けた。東海林君と僕は距離を置き、違う角度から攻める。皆瀬さんと又吉じいさんは、そんな僕たちを黙って見ていた。
「ヒット!」
 東海林さんの声が響いた。竿が大きくしなっている。かなりの大物だ。距離は開いていても、リールからジリジリと糸が引き出されていくのがわかるくらいだ。東海林君は竿をためながら、懸命に魚の引きに耐えている。
 皆瀬さんが腰を上げた。東海林君に駆け寄る。もちろん僕も駆け寄る。
「違うな。あいつじゃねえ」