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僕の村は釣り日和8~鬼女沢

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 鬼女沢沿いには小径がある。その小径をたどっていけばよいのだが、不思議なことにモヒカン猿は野山を行かず、小径を歩いた。まるで僕たちを先導するように。
「どうやら、あの猿は不見滝(みえずのたき)まで我々を案内するつもりらしい」
 額に汗をかきながら、皆瀬さんがつぶやいた。小径の傾斜は結構きつい。
「不見滝?」
「鬼女沢の魚止め滝だよ。森に覆われて、音しか聞こえず、なかなか見えないから不見滝という名前が付いたらしい。落差30メートルはある、大きな滝でね。そこの下には大きな淵になっている」
 魚止め滝とは、魚が遡れない滝のことで、そこから上流に魚はいない。もっとも、人間が持ち込まない限りの話だが。鬼女沢には漁協も放流事業を行っていないので、おそらく不見滝から先に魚はいないだろう。
「それに……」
「それに?」
「滝の側に又吉さんというじいさんが住んでいてね。そのじいさんがくせ者なんだ」
「どんなおじいさんなの?」
「俗に言う世捨て人さ」
「世捨て人?」
「そう。滝の側で魚を獲ったり、山菜を採ったりして自給自足の生活をしているんだ。そんな人でも村人だからね。毎回、村の広報や選挙の投票用紙を届けるのが大変なんだよ」
「ふーん」
「それに性格も頑固ときてるから、手に負えないよ」
 皆瀬さんは汗をふきながら笑った。東海林君はただ夢中になって、モヒカン猿の背中を追いかけている。
 すると、急に視界が開けた。目の前に広がる大きな滝と、すべてを飲み込むかのような大きな滝壺がそこにあった。
 東海林君の目はモヒカン猿を追った。しかし、猿は薮の中へ身を潜めると、すぐに見えなくなってしまった。 
 その滝壺の脇に小さな掘っ建て小屋がある。どうやらそれが又吉じいさんの家らしい。
 皆瀬さんは又吉じいさんの家らしき掘っ建て小屋に向かって歩きだした。
「ごめんください。皆瀬です。又吉さん、いますかー?」
 皆瀬さんが大声で叫ぶと、「おう」と威勢のいい声が返ってきた。そして、奥からいかにも仏頂面をしたおじいさんが出てきたのである。
「何じゃ、また木っ端役人か。今日は何の用じゃ」 
「いや、特に用はないんですけどね。この子たちと釣りに来まして」
 東海林君も僕も、無愛想なおじいさんに軽く会釈した。
「最近のガキどもは、西洋かぶれの道具で釣りなんぞしよる。世も末じゃわい」