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僕の村は釣り日和8~鬼女沢

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 僕はランドセルの中をまさぐった。そして、うやうやしく秘密兵器を取り出す。
「おおっ!」
 東海林君が叫んだ。
「ザラ?か。なるほど考えたなあ。こいつなら水面でネチネチ操れる」
 ザラ?とはトップウォータープラグの中でも、ペンシルベイトと呼ばれる種類で、タマゴを細長くしたような形をしたシンプルなルアーだ。そのシンプルなルアーが竿の操作により、左右にスライドするような動きを見せるらしい。それを水面下から見れば、鳥がもがいているように見えるだろうと思ったのだ。
「今日の夕方、ため池で早速、これを試そうぜ」
 東海林君が血走った目が、さらに血走る。
「悪い。今日は予定があるんだ。明日にしてくれないか?」
「わかった。俺も今日は休むわ。あー、でもこれ見たら少し安心したぜ。授業中に寝ちゃうかも」
「いいんじゃない。たまには」
 そう僕が言った時には、既にいびきが聞こえていた。

 太陽が西の空に傾きかけた頃、僕は落合橋で小野さんを待っていた。
「ごめん。待った?」
 逆光の中を駆けてきたのは、はつらつとした小野さんだった。その爽やかなまでの健全さの中に、どことなく漂う異性の香りが僕を刺激する。自然と心臓の鼓動は高鳴った。
(デートじゃない。ただの釣りじゃないか)
 そう自分に言い聞かせるが、体は正直なものだ。顔から湯気が出そうだった。考えてみれば、女の子と二人きりになるなんて、これが初めてかもしれない。
「僕も今、来たところだよ」
 そんなことはない。だいぶ前から待ち焦がれていたのだ。
「ねえ、釣ろう、釣ろう」
 釣竿を担ぎ、はしゃぐ小野さんを横目に、僕は川原への踏み跡を先に行く。斜面は急だったため、手を差し伸べた。小野さんの手が僕の手をギュッと握った。ふだん元気で男勝りの小野さんだが、この時ばかりは、すがるような力で僕の手を握ったのだ。そして、その手は温かかった。
「よし、ウグイやオイカワを狙おう」
「釣っても、もう学校の水槽には入れないね」
 小野さんが少し照れたような笑いを浮かべた。どうやら、まだメダカの一件を気にしているらしい。
「たくさん釣れたら、甘露煮だっていいんだぞ」
「あー、食いしん坊」
「あははは……」
 小野さんは釣り支度にかかった。まだ初心者ということもあって、手際がよいとは言えない。僕は小野さんの仕掛け作りを手伝うことにした。