ここにも戦場があった
左右確認。前方確認。前進。横移動。出腹注意。頭上確認。地雷注意。
柑橘系の臭いが部屋を覆っている。先程の爆撃でどこかやられたらしい。
問題の狭小地帯にさしかかった。明らかに入る時に比べて狭くなっている。これでは体を横にして、痩せる思いで腹を引っ込めて息をとめても通れないだろう。
重爆が済んだコートを戻すときに、60度に開いていた扉を90度にしてしまったらしい。そしてその角度は、その時加勢に出てきたバッグ類で固定されてしまっている。
いずれにせよ、ここを突破しなくては本隊に戻れない。私は強行突破を試みた。90度に開いた扉を手でさらに30度広げた。
待機していたかのようにバッグの戦車隊が前進を開始した。それは私の足元まで迫ってきて攻撃をしている。
私は応戦しようかと一瞬思ったが、ここは異次元なのだからとまた自分に言い聞かせ、撤退を始めた。
やっと娘の部屋から出られる。その気のゆるみが悲劇を招いた。足元に転がり出たルイヴィトン戦車を又いだ瞬間頭に衝撃が走った。目の前に黄色い花火が咲いた。
185㎝ある私は扉をくぐる時は自然に頭を下げて通るのだが、バッグをまたいだ時に頭が上に浮いた。そして見事なタイミングでてっぺんを強打してしまった。
悲鳴をあげた記憶は無いが、ジイの部屋の扉が開き、何事が起こったかとジイがこちらを見ている。そして私が頭を抑えていることで、察したらしく、「大変だね」と半分嬉しそうに言った。
作品名:ここにも戦場があった 作家名:伊達梁川