僕の村は釣り日和7~消えたメダカ
みんなウグイの尻ビレの辺りに注目する。するとどうだろう。フンが出かかっているではないか。
「きゃっ、目玉!」
女子のひとりが叫んだ。そう、そのフンは紛れもなく、消化されかけたメダカだったのだ。薄っすらと骨の部分も確認できる。
「そ、そんな、ウグイがメダカを食べるなんて。ブラックバスじゃあるまいし……」
さすがに小野さんも驚きを隠せない様子だ。
「私が、私がウグイなんか入れたばっかりに、メダカが……」
そこから先は言葉にならなかった。小野さんの肩は震え、わなないていた。
そんな小野さんの姿を見て、少し熱くなり過ぎた自分を、僕も反省した。
「知らなかったんだもん。しょうがないよ。誰もウグイがメダカを食べるなんて、普通は思わないもんね」
僕はうずくまる小野さんの目線の位置まで腰を落とし、優しく話しかけた。
小野さんの唇がわずかに「ごめんなさい……」と動いた。
次の土曜日、東海林君と僕は連れだって、また笹熊川の上流を目指していた。それにしても、林道での自転車こぎは疲れる。今日目指すのは笹熊川が鬼女沢と合流する付近だ。
九月も下旬になり、樹々の葉もだいぶ色づいてきた。今年の紅葉は綺麗だろう。そんなことを思いながらペダルをこぐ。
林道はある一点を過ぎると、長い下り坂になった。帰りには、これを上らなければならないと思うと、正直なところ、しんどかった。
笹熊川と鬼女沢の合流点の手前で、林道は終点を迎える。そこには地元のものと思われるワゴン車が一台、置かれていた。
「ちっ、先客がいたか」
東海林君が舌打ちをした。しかし、仕方ない。釣り場はみんなのものだ。問題なのは我々のようなルアー釣りを理解してくれるかどうかだ。
「しょうがないよ。行こう」
僕たちは早速、釣り支度を始めた。
先日、高田君と釣った場所よりも、更に上流であるこの場所は、当然ながら、流れも細くなっている。子供でも場所さえ選べば、川を渡ることは可能だ。
東海林君と僕はテンポよく釣り上がっていった。ルアー釣りは餌釣りのように、丹念に仕掛けを流したりしない。積極的に攻めて、早めに見切りを着けては、次のポイントへ移動する。
そんな釣りをしているうちに、東海林君も僕も何匹かのイワナを釣っては、川へ返していた。
作品名:僕の村は釣り日和7~消えたメダカ 作家名:栗原 峰幸