小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

僕の村は釣り日和7~消えたメダカ

INDEX|2ページ/9ページ|

次のページ前のページ
 

 東海林君があかね色に染まりかけた空を眺めながらつぶやいた。秋の日はつるべ落としとは、よく言ったものだ。最近、陽が落ちるのがめっきり早くなった。
「それで、お父さんの猿は何か言っていたのかい?」
「ああ、『この猿はいい。自由でいい。群れにも入らず、ひとり気ままに生活していく』ってな」
「ふーん。でも、あの猿、年寄りくさかったぜ。君のお父さんが亡くなったのは今年だろう。それじゃあ、説明がつかないんじゃないか?」
「それも言っていた。『この猿に取り憑いた』ってな」
 東海林君の目は宙を泳いでいた。どこに焦点を合わせるでもなく、広大な空を眺めている。
「そうだ。今度の土曜日にまた、笹熊川に釣りに行かないか? そうすりゃ、君のお父さんにまた会えるかもしれないぜ」
 東海林君が僕の目を見た。そして力強く頷いた。
「ところで、その話をもう、お母さんにしたのかい?」
「とてもできる状況じゃないよ。話したら三日は寝込んじまうだろうな」
 東海林君がクスッと笑った。

 その翌日の朝だった。東海林君は僕に胸の内を明かせて、少しすっきりしたのだろうか。明るく振る舞っていた。教室のみんなとも、雑談をしている。
「都会はよー、便利かもしれねえけど、コンクリートだらけで味気無いぜ」
 そんな話を笑ってする彼を、僕は目を細めて眺めていた。
「みんな、おはよう!」
 元気よく教室に入ってきたのは、小野さんだった。小野さんは活発な六年生の女の子で、その元気さは男子に引けを取らない。
 小野さんの片手にはビニール袋が握られており、中で何やらうごめいている。小野さんはビニール袋を持ったまま、教室の隅の水槽へ向かった。
 教室の隅には横幅が60センチ程の水槽がある。中にはメダカが十匹ほど入っており、今週は僕が水槽を掃除する当番だった。
「桑原、川でウグイを釣ってきたから、メダカの水槽の中に入れるね」
「何だ、また世話するのが増えちゃったじゃないか」
「ボヤかない、ボヤかない。来週の当番は私だからさ」
 小野さんは僕の背中をポンと叩くと、席に着いた。
 振り返ると、20センチ程の銀色の魚が、水槽の中で優雅に泳いでいた。
 この時、これが怪事件の始まりとは、教室中の誰も予想だにしていなかった。
 それは昼休みの高田君の一声から始まった。
「何か、メダカの数、減ってねえ?」