ありがとう
「大丈夫ですか。気分は悪くないですか。救助の人が来たんです。今、そこから出してあげますよ」
「おお、そうか。私はもう助からんと諦めていたんだ」
僕は男性の両腕の下にロープを巻きつけて縛った。そして男性の横に身体を滑り込ませて腰の辺りがよく見えるところまで来た。
そこにははっきりと尿の臭いが立ちこめていた。それと微かに血の臭いも。
思った通り、それほど太くない鉄骨が腰の上に乗っていた。しかし、片方は何か別の物に乗っているらしく、地面に対し滑り台よりも緩い傾斜を保っている。
僕はこれならジャッキで持ち上がるかも知れないと思った。もっとも、他に深刻なものが乗っていなければ、であるが。
男性の腰のすぐ近くにジャッキを入れてレバーを押してみる。鉄骨に当たりそうになるまでは急いで動かした。しかし、シリンダーが鉄骨に触れてからは言われた通り慎重に動かした。
ギギギッ。と鉄骨が軋む音がする。しかし程なく男性の腰と鉄骨の間に隙間が出来たのがわかった。
「鉄骨は持ち上がったけど、どうですか。動けそうですか?」
僕は声を掛けみたが。男性は少し呼吸が楽になった様に見えたけど、返事を返してはくれなかった。
「すみませーん! ロープをゆっくりと引っ張ってください!」
僕が大声を出すと直ぐに、よしわかった、と返事が来た。一瞬後にロープがゆっくりと張りを強めているのが判った。
そして男性の身体は少しづつ出口の方へ移動してゆく。僕はロープが瓦礫の角に当たってギリギリと音をたてていたので足を伸ばしてロープと瓦礫の間に差し込んだ。足は多少痛かったけど、ロープはスムースに動くようになった。そして足に当たっていたロープはいつの間にか男性の身体になっていた。そこを過ぎれば後は真っ直ぐ引っ張るだけだ。
背中の方で再び歓声が聞こえた。
でも、何かが聞こえたのも、明りが見えたのもそこまでだった。
何が原因なのかはわからないけど、その時バランスを保っていた瓦礫の隙間は一気に崩れて僕の上に圧し掛かって来たんだ。