ありがとう
一方、僕は身長が百六十センチにやっと届こうかという程低く、おまけに痩せていたので酷く貧相に見える。そのおかげで中学・高校時代は皆に馬鹿にされて虐めにもあったのだ。そして、小学校の好きな先生の言葉さえ封印するようになったのだと思う。でも――。
「僕が行きます。僕はこの通り小柄だし少し中に入ればもう少し空間は大きかった。それにあの人は直ぐに助けないと危ない気がするんです」
リーダーらしき人の肩を揺すって訴える僕の顔の横に黄色いロープが差し出された。
「おい、誰がロープをと言った!」
「隊長! そこに助かるかもしれない人が居るんです。この人にお願いしてみましょう」
「しかし――」
隊長と呼ばれた人は考えている様だった。しかし僕は答えが出るのを待たずにロープを掴んで再び瓦礫の下に潜って行った。
「それと持ち上げる物を!」
隊長は僕を説得するのを諦めたのか、誰も僕の足を引っ張ろうとする人は居なかった。そのまま少し待っていると僕の腰の辺りに何か硬いものが押し込まれた。顔の側まで引っ張って見ると赤い色をした道具だった。
「油圧ジャッキだ。このレバーを差し込んで上下に動かせばシリンダが持ち上がる!」
長い棒の先に短い鉄のの棒がガムテープでつけられていた。この棒で油圧ジャッキを押し込んだ様だ。
「ありがとう」
僕は鉄の棒を外してジャッキに差し込んでみる。そしてジャッキを押しながらあの年配の男性の方へ這って行った――。背中の方から、急いで動かすと危険なので慎重に、と叫ぶ声が聞こえた。
僕はもしかしたらあの男性は既に死んでいるんじゃないかとも思ったのだけど、辿り着いてみたが、やはり男性に息があるのかは判らなかった。僕は声を掛け、腕を伸ばして肩に触れてみた。
「うう……。や、キミか。私は寝ていたのか」
男性は生きていた。僕は心底ほっとしたが、その声は前に交わした時よりもさらに弱々しくて、僕は急がなくてはと思った。