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せき あゆみ
せき あゆみ
novelistID. 105
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夏色のひみつ

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「なっちゃんて先生なの?」
 ふたりと別れてからわたしはなっちゃんに聞いてみた。
「ううん、ちがうわよ」
「だって、ゆきちゃんとなみちゃんが先生って」
「ああ、あのね。今四年生は総合学習の時間にこの町の歴史とか環境のことを勉強してるの。それで月に一回か二回市役所から助っ人がいってるの。わたしは一応歴史のことを教えにいってるのよ」
「へえ、すごい。だから先生なのか」
 わたしがびっくりするとなっちゃんは、
「そうでもないわよ。たまたま四年生の担任がわたしの友だちだから、頼まれたの」
と、肩をすぼめた。
 
 早めにお風呂に入って、おばあちゃんが縫ってくれた浴衣に着替えた。おばあちゃんとなっちゃんが夕食の支度をしているので手伝おうとしたら、
「今日はお客様でいいよ」
って、おばあちゃんが言ったので、縁側で夕涼みと決めこんだ。なんだか旅行に来た気分。
 雑木林みたいな庭は、まだセミがうるさいくらいに鳴いている。ほんの少し残った夕焼けの光に木立が黒々としたかげになっている。
 その時。門に近い木の陰に白い人影が見えた。それも、玄関に向かってくるのでなく、庭を行ったり来たりしているので、ヘンに思ったわたしは、おばあちゃんにいいに行った。
 おばあちゃんは、
「ああ、近所の子だよ。きっと。うちは木が多いからセミがいっぱいいるからね。夜おとなしくなってから、つかまえに来るんだ」
と、お味噌汁の味見をしながらいった。
 そしたら、晩酌を始めたおじいちゃんが、
「まゆもいってごらん。地面からセミの幼虫が出てきて脱皮するところもみられるぞ」
と、教えてくれたので庭に出てみることにした。
 まだ人の顔もなんとか見える明るさが残っている。白い人影はさっきとはべつの木の陰にいたので、思い切って声をかけてみた。
「ねえ、そこにせみの幼虫いる?」
 すると、木陰からひょっこりでてきたのは、とても近所の子どもとは思えない姿をしていた。
 びっくりして後ずさりしたわたしに、その子は話しかけてきた。
「セミの幼虫はもっと暗くならないと出てこないよ。待っていたんだ。君が来るのを。さっきはおどろかしてごめんね」
「さ、さっき?」
「あの切り通しの道で、君にへんなものを見せちゃっただろ」
 そうだった。昼間、わたしは異次元にでも投げ出されたみたいに、海の上にうかんでいたんだっけ。
「あ、あれはあなたの仕業なの?」
「うん。ごめんね、君に会えたのがうれしくて、つい。あれはぼくの一番古い記憶なんだ」
「古い記憶って?」
 そのときだった。
「まゆ。ごはんよ」
 なっちゃんがわたしを呼びにきた。
「まゆ、どこにいるの?」
 なっちゃんの声に驚いたその子は、わたしに目の前からすうっと消えてしまった。
 幽霊なのかしら。でも不思議と怖さは感じなかった。
「まゆ。ここにいたの? ちゃんと返事をしてくれないとわからないじゃない」
 わたしが返事をする前に、なっちゃんがわたしを見つけた。
「あ、ごめんなさい」
「もう、蚊がすごいわね。はやくうちにはいりましょ」
 なっちゃんはヤブ蚊を払いながら早足で家に入っていった。わたしはあの子が気になって、もう暗闇になった木立の方をふりかえりながら家に入った。

作品名:夏色のひみつ 作家名:せき あゆみ