夏色のひみつ
その坂道を半分ほど下って、左に曲がり、坂道を少し登るとおばあちゃんの家だ。
「うわあ、こんなに庭が広かったんだ」
広い庭はたくさんの木が生えていて、まるで雑木林みたいだ。セミが歓迎してくれているように鳴いている。
「そう、あの木の枝にブランコをつけて、まゆは遊んだのよ。三つくらいの時……」
なっちゃんは目を細めて、懐かしそうに言った。
「大変だったね。歩いてきたのかい」
少し腰を曲げたおばあちゃんが奥から出てきた。
「まゆ、大きくなったね」
おばあちゃんはにっこり笑うと、まるで小さい子にするように、私の頭をなでた。でも悪い気はしない。うんと小さい頃、なでてもらった感触を思い出してなつかしかった。
「まゆの部屋はね、こっちだよ。夏海のとなりにしたからね」
おばあちゃんの家は平屋だけど、広くて部屋がたくさんある。古い家に建て増しをして、民宿をやっていたことがあったから。
なんでもそれはバブルが始まる少し前のことで、そのころはおばあちゃんちだけでなく、この辺の漁師の家は軒並み民宿をやっていたそうだ。
安い料金で泊まれて、旅館よりも肩がこらない民宿は、家族連れに人気があったという。
それがバブルの頃には、リゾートマンションブームになって、そのあとは観光客も日帰りや、マイカーで夜を明かすサーファーが多くなったので、民宿はさびれていった。
おじいちゃんはまだ現役の漁師だし、なっちゃんもお勤めしているので、おばあちゃんはのんびり家事をやる方がいいと思って、やめたのだといっていた。
私の部屋は建て増しした方で、一番奥の静かなところだった。裏山の竹林から涼しい風が入ってくるので、クーラーなしでも快適だ。
お母さんが先に送っておいてくれた着替えの荷物も届いていて、そこにおいてあった。勉強道具もしっかり入って。
「勉強机のかわりにおぜんを出しておいたからね」
窓際にはしっかり座卓がおいてあった。