夏色のひみつ
さよなら、こがね丸
「やっぱり一筋縄じゃ行かないのは、なっちゃんだわね」
夜、こがね丸にわたしは言った。
「荒療治が必要よ」
「どうすんの?」
「もう、秘密はいやなの。秘密なんかもっていたら、本当の幸せになれないもん」
「うん」
こがね丸はわかったようなわからないような曖昧な返事をした。
土曜日の朝、わたしはなっちゃんを無理矢理引っ張って、佐藤さんがとおる山の道に行った。
「まゆ。よしてよ。大人のことに口を挟まないで」
「やだ。わたしにも関わりがあるわよ。死んだ弟やお父さんのことが気になって、再婚できないなんてわたしいやだもん。だったらわたしはどうしてよその子になったの!」
「まゆ……」
なっちゃんは体を硬くして、すごくつらそうな目でわたしを見た。
わたしはなっちゃんをにらんだ。うらんだり、せめるつもりもないけど、なっちゃんがいつまでもこんなふうじゃ、わたしを引き取ったお母さんだって幸せじゃない。なっちゃんに遠慮して、いなかに里帰りもしないなんて。
佐藤さんがやってきた。
「おはようございます」
佐藤さんはちょっとびっくりした顔をしたけど、すぐに笑顔になった。
なっちゃんは少し気まずそうに会釈した。
「佐藤さん。なっちゃんを幸せにしてあげて下さい」
わたしはズバリと言った。
「え? でも、ぼくは……」
「いいの、本当はなっちゃんも佐藤さんが好きなの。なっちゃんを幸せにできるのは佐藤さんしかいないんだから」
そう言いながら、わたしは泣いていた。わたしの気持ちもこがね丸の思いもなっちゃんに通じてほしかった。
「まゆちゃん……」
佐藤さんはわたしの肩をたたいた。それはまるで「まかしとけ」っていっているみたいだった。
「夏海さん。あなたの過去のことはきいています。でも、それでもぼくはあなたが好きです」
やった! やった!
佐藤さんの男らしいことばをきいて、今度は嬉しくて涙が出てきた。
なっちゃんはうつむいたままだ。かすかに肩が震えているのは、泣いているからみたい。
「わたし、さきに帰りますね。佐藤さん、なっちゃんをお願いします」
もう、気持ちが通じ合ってるよね。お邪魔虫は消えよう。