夏色のひみつ
「おばあちゃん。本当はね」
包帯で足をぐるぐるまきにして、大げさにけが人のふりをしたわたしだけど、さすがに暑いので、おばあちゃんには本当のことを話した。
「まあ、まゆったら」
おばあちゃんはあきれながらも、けらけら笑った。
「でも、佐藤さんてやさしそうないい人でしょ?」
「まあ、感じはいいね」
「わたし、たかこ先生にも聞いたの。出身は東京なんだけど、子供の時この町に遊びに来て、すごく好きになってひっこしてきたそうなの」
おばあちゃんはいんげんのすじを取りながら、うんうんとうなずいた。
「この町からだんだんと自然がなくなっていくのを、すごく心配していてね、だから、小学校の授業にもすごく協力的で、竹炭をつくって川底に埋めたりするのも、一生懸命やってくれたんだって」
「そりゃあ、たいしたもんだ」
「わたしは、なっちゃんが結婚するといいなっておもうんだけど」
「そうだねえ」
おばあちゃんは急に元気のない返事になった。
「ねえ、おばあちゃん、なっちゃんが結婚しないのは忘れられない人がいるからなんでしょ?」
ぱさっ。おばあちゃんは手に持ったザルを落とした。いんげんが床に散らばった。
おばあちゃんは床にしゃがみ込んで、あわてて拾い集めた。わたしもすぐにてつだった。
「ねえ、おばあちゃん。わたし、わかっちゃったの」
「まゆ」
おばあちゃんは青ざめた顔で、わたしを見つめた。
「でも、わたし、そのことをどうこう言わない。だけど、なっちゃんが幸せになってくれなくちゃいやだ」
「まゆ。ごめんよ。おばあちゃんが悪かったんだよ」
おばあちゃんは前掛けで顔を覆いながら声を上げて泣き出した。
「おばあちゃん。ちがうの。ごめんね。わたし、みんな大好きだから。泣かないで」
泣かないって決めたのに、涙がぼろぼろ出てきた。