夏色のひみつ
ゆきちゃんやなみちゃん、それにたかこ先生から、佐藤さんについていろんな情報をもらった。
それによると、佐藤さんは毎朝、ジョギングをしているという。それも、ちょうどうちの裏山の上にある道を。
「わたしの部屋から抜け出して、竹林をのぼればすぐだわ」
夜、布団に入って、ああでもない、こうでもないといろいろ考えていたら、目が冴えて眠れなくなった。
「ねえ、こがね丸。でてきてよ」
電気を消して声をかけたらこがね丸はすぐに姿を現わした。
「あんた、なにかできないの?」
すると、こがね丸は申し訳なさそうに
「ごめん。ぼくはいつかも言ったけど、人間の意識の産物だから、人間のイメージの通りの力しかないんだ」
といった。
「だって、妖怪だって人を食べちゃうのとかいたずらするのとかいるじゃない」
「だから、それは人間がそういう風に、そんな力があるってイメージするからだよ。ぼくなんか手をこうして頭にかざして、座ってるだけなんだよ」
そういいながら、いつかなっちゃんが見せてくれた古文書にある、金の字小僧のポーズをとって見せた。
わたしは思わず吹き出した。
「笑わなくたっていいじゃないか。どうせぼくは役立たずだよ」
「ごめん、ごめん。あんたのせいじゃないんだよね」
わたしはすぐに笑いを止めることができず、しゃっくりが出そうになった。
そんなわたしをじっと見ながら、こがね丸はだんだんと神妙な顔になって、
「人間になれたら楽しいのかな」
ぽつりとつぶやいた。
「こがね丸……」
「お母さんに抱かれたら気持ちいいのかな」
ふと寂しそうに見えた。
「こがね丸」
そうだよね。こがね丸には親はいない。人間の勝手な想像がうみだしちゃったんだもん。
おまけになっちゃんのやり場のない気持ちが乗り移っちゃったから、こがね丸は今まで知らなかった感情を持ってしまったんだ。
なんと言ってなぐさめてやればいいのかわからないので、そっと肩に手を伸ばしたけど、すり抜けてしまって、ふれることはできなかった。そしたら、
「なーんてね」
こがね丸はおどけて見せた。
「じゃあ、ぼくは消えるよ。もう君も寝なきゃいけないだろ。朝早いんだから」
「うん。お休み」
「お休み」
消えかかるとき、そう言ったあとから聞こえたことばは、空耳じゃなかったと思う。
「お姉ちゃん」