夏色のひみつ
「夏海は知ってるの? あなたがその写真を見たこと」
「いいえ」
「なら、わたしにはいえないわ。きっと知らないほうがいいもの」
でも、そういわれるとよけいに知りたくなる。なにか秘密があるなら、わたしの今の生活はウソなの?
そう叫びたくなった。
「だって、この前、わたしがお母さんがここに私を連れてこなかったのはいじわるだって言ったとき、おばあちゃんの顏色が変わったんです」
「お母さん……。ああ、春ちゃんね」
「お母さんも、こんなにいなかが近いのに、なんだかさけているみたいだった」
わたしは言いながら涙が出てきた。
「そうねえ」
先生はまたわたしの方を見た。
「まゆちゃんは夏海に幸せになってほしいと思ってる?」
「は、はい。もちろん」
「わたしも親友として、早く幸せになってもらいたいと思っているの。それにはどうしたらいいと思う?」
「あの、なっちゃんが昔好きだった人が死んだっていうのは……」
「ほんとうよ。あなたが見た写真の人。学生結婚だったの。でも、もうあれから十年たつんだものね……。ゆきさんたちにはそこまでいえないから、婚約者がなくなったっていうことにしたけど……」
窓から涼しい風が入ってきた。草いきれの匂いがする。
「わたしは無理に忘れなくてもいいと思うけど、他の人と結婚するのが、今の夏海にとっていいことだと思うのよ」
わたしはうなずいた。先生は思いきったように話を続けた。
「事故でね、ご主人もふたごの赤ちゃんも亡くなったのよ。たった一人夏海だけが助かったから、つらいのよね」
なっちゃんがかわいそうになった。でも、赤ちゃんのこともなっちゃんのこともわかって、わたしはほっとした。
きっとお母さんはなっちゃんに悪いと思っているから、いなかにこようとしなかったんだと、わたしは独り合点した。
わたしと同じ年のいとこたちがいて、なくなったんだと思うとショックだけど、もう、あの写真のことでいろいろ悩まなくてすんでよかった。
それから、わたしはたかこ先生に佐藤さんのことを話した。先生もなっちゃんと佐藤さんをくっつけることに賛成して、協力してくれることになった。
合唱部の練習が終わって、ゆきちゃんとなみちゃんが教室にきた。
「みんなでかき氷でも食べましょうか? 今日は特別おごるわよ」
「きゃー先生、太っ腹」
なみちゃんが冷やかすように言った。
「こら、それは皮肉?」
たかこ先生はちょっと太め。気にしているらしい。
何日ぶりかで胸のつかえが取れたわたしは、元気になっておばあちゃんちに帰った。
こころなしか、おばあちゃんもなっちゃんもほっとしたように見えた。