夏色のひみつ
たかこ先生
体の調子もよくなったので、次の日は朝早くから起きて、浜の手伝いをしたり、畑の水やりもやるようになった。でも、あの写真のことが頭から離れず、なにをやっていても上の空だった。
自分では普通にしているつもりでも、なっちゃんに対して、どこかよそよそしくなっていた。
それは写真のことをうっかり話してしまいそうなのと、それがなぜかわたしに関係のあるような気がしてならなかったから。わたしはこわくてたまらなかった。
なっちゃんはわたしがホームシックになったのかと思ったみたいで、なにかと気を使ってくれたけど、それがかえってつらかった。
数日後、ゆきちゃんから電話があった。
「あのね。たかこ先生。あしたあえるって。学校にいるから、四年生の教室に来てって」
「そう。ありがと、ゆきちゃん」
電話を切ったとき、手が震えた。あわせてほしいと頼んだときは、何を聞いたらいいのかわからなかったけれど、今はあって聞くのが怖くなった。
その晩はドキドキして眠れなかった。
こがね丸も近くにいるような気がするけど、ちっとも姿をあらわさなかった。
次の日。わたしはゆきちゃんたちといっしょに学校へ行った。
「じゃあ、わたしたちは練習があるから、終わったらここに迎えにくるね」
四年生の教室に案内してもらうと、ゆきちゃんとなみちゃんは、合唱部の練習に行った。
ひとりになったら、ドキドキしてきた。知らない教室のせいばかりじゃない。
落ち着いて、聞きたいことを整理しなくちゃ。そう思うほど、心臓は高鳴った。
「こんにちは。まゆちゃん。おまたせしちゃってごめんね」
たかこ先生が急いではいってきた。外にいたらしく顔が赤くなって汗をかいている。
「こんにちは。先生」
わたしはイスから立ち上がって挨拶した。
「もう、あついわね。花壇の草取りしてたのよ」
そういいながら、たかこ先生はひきだしから扇子をだしてあおぎ始めた。
「で、なに? 話って」
たかこ先生は大きな目でわたしをじっと見た。
「あ、あの……」
「ん?」
その目は、なんにもごまかせないような気がして、思い切って言った。
「実はわたし、写真を見ちゃったんです」
「写真? なんの?」
「ふたごの赤ちゃん……」
たちまち先生の顔色が変わった。
「ずっと若いときのなっちゃんと男の人と……ふたごの赤ちゃん。それは、わたしと関係があるのか……」
たかこ先生は唇を小刻みに震わせて、わたしの顔を大きく見開いた目でじっとみつめている。
わたしは口をきゅっと結んで、先生の目を見つめかえした。
すると先生は、視線を下にそらし、ほうっとため息をついた。
「わたしが言ってもいいことかどうか……」
そうつぶやくと窓の外を見た。高台にあるこの小学校は眺めがいい。真っ青な夏の海がよく見える。水平線がくっきりと空との境を色分けしていた。