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森と少女~forest

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シーン2(闇の世界)


 辺りが暗くなる。虚無の女登場。
 怯えているアリス、忙しなく周囲を見渡し、きつく目を閉じてその場にうずくまる。ウサギはアリスから少し離れたところで、じっとアリスの様子を見つめている。
 闇の支配者が闇の住人達を連れて登場。闇の支配者と住人達によるパフォーマンス。パフォーマンス中、アリスはより一層怯えて、住人達に背を向ける。パフォーマンス終了間際、ウサギはアリスの側に寄って、

ウサギ「アリス、目を開けてごらんよ。怖くなんかないんだから」
アリス「…………」
ウサギ「何がそんなに怖いの? みんなの声を聞いてごらんよ。全然怖くない。みんなぼく達とは住んでいるところが、考えていることが、信じているものが、ちょっとずつ違うだけなんだ。でもねアリス、そんなのはみんな」
支配者「当たり前のことだろう?」

 パフォーマンス終了。闇の住人達は闇の支配者の左右に控えて屈み込む。顔を上げず、じっと下を向いたまま。
 怯えて、震えながら目を閉じうずくまるアリス。
 その背中に闇の支配者が言葉をかける。

支配者「……君は誰だ?」
アリス「…………」
支配者「なんで目を閉じるんだ? ……もしかして、俺が怖いのか?」
アリス「…………」
支配者「答えてくれ。君は誰なんだ……どうしてここにいる?」
アリス「…………」
ウサギ「この子はアリス。ぼくがこの世界に呼んだんだ」
支配者「アリス? そうか……君がアリスか。なあ、どうして君はずっと目を閉じているんだ? どうして俺の言葉に答えてくれないんだ?」
アリス「…………」
支配者「そうか……君も、俺のことが……俺達のことが、怖いんだな」

 闇の支配者、アリスから少し視線を逸らす。俯き気味で呟くように、

支配者「誰だって夜は怖いし暗闇なんか嫌いだ。そんなのは当たり前さ……俺にだってよくわかっているよ。だから、君がそうしたいなら、ずっと目を閉じたままでいい。ただ、俺の質問に答えて欲しいんだ」
アリス「…………」
ウサギ「アリス……」
アリス「……(頷く)」
支配者「ありがとう。君は、夜が怖い……そうだな?」
アリス「……(頷く)」
支配者「夜が怖い、暗闇が怖い、だから目を閉じている。そうだな?」
アリス「……(頷く)」
支配者「それならアリス、答えてくれないか。夜が怖いのはわかる。暗闇が嫌いなのもわかる。だけど、それなら何で目を閉じるんだ? 目を閉じたら、見えるのは本当の暗闇だけじゃないのか?」
アリス「……あ……」
支配者「瞼の裏に映るのは、夜の闇よりもなお深い、本当の暗闇だけだ。月明かりも届かない、夜の住人である俺ですら住めない暗闇だ! アリス……君が見たいのはそんなものなのか?」
アリス「……(首を左右に振る)」
支配者「ならばアリス、ほんの少しでいい、目を開けてくれ。一度だけでいい、夜の世界に住む俺の姿を君の目に映してくれ。瞼の裏にある暗闇に……逃げ込まないでくれ」

 アリス、ゆっくりと目を開いていく。ウサギ、その様子をじっと見ている。
 アリス、意を決したかのようにゆっくりと頷くと、闇の支配者の方へと向き直る。
 闇の支配者、満足げに頷く。

支配者「どうだ。俺の姿が見えるか? 君と何も変わらないだろう?」
アリス「……はい」
支配者「そう。俺と君は何も変わらない。昔は俺も、君と同じ世界に……太陽の光の下に住んでいたんだ。そして君と同じように、夜を怖いだけのものだと思っていた。いつもいつも、安らかに眠れるのは夜だけだと知っていたはずなのに……俺は、夜が来るのをいつも恐れていた」
アリス「……私と……同じ、なんですね」
支配者「ああ。俺と君はよく似ているよ。だが、一つだけ違うところがある」
アリス「違うところ……?」
支配者「ああ。君は瞼の裏にあるのが本当の暗闇だと気付くことができた。だけど……俺は、それに気付いたときはもう手遅れだった」
アリス「手遅れ……ですか?」
支配者「ああ。夜が怖くて、俺はずっと目を閉じていた。朝も昼も、いつ陽が沈んで暗くなるのかと思うと、とてもじゃないけど怖くて目なんて開けていられなかった。そのうちに俺は瞼の裏に映る暗闇しか見えなくなって……気が付いたら、一番怖かったはずの夜にしか生きられない体になっていたんだ」
アリス「…………」
支配者「ははっ、そんな目で見ないでくれ。確かに俺は夜の世界の住人になったけど、今はそんなに悪くないと思ってる。俺達の住む世界は昼間ほど眩しくないし、騒がしくもない。俺達のことを見てくれない奴らはいるけど、俺達からみんなの姿をこの目に焼き付けることはできるんだから」
アリス「夜にしか生きられないのに……辛くないんですか?」
支配者「君は、もし夜にしか生きることができなくなったら辛いと思うのか?」
アリス「……それは……」
ウサギ「大丈夫だよ、アリス。君はもう、夜が怖いだけのものじゃないって気付いてるんだから」
アリス「ウサギさん……」
ウサギ「こんなに暗い夜なのに、アリスには彼の姿が見えるでしょ? それはね、夜の住人達だって、本当に深い暗闇の中で生きてるわけじゃないってことの証なんだ」
支配者「そう。俺達夜の世界の住人は、月明かりの射し込む優しい夜だからこそ、この中で生きていこうと決めたんだ。瞼の裏に映る本当の暗闇じゃない、星と月に照らされる静かな夜だから、俺達はこうして生きていられるんだ」
アリス「……それじゃあ……あなた達は、暗闇の中でしか生きていけなくなっても、辛くないんですね……」
支配者「何も辛くない。それは全然不幸なことじゃないんだよ。確かに少し見づらいかもしれないが、夜にだって真実は隠されている……君達が真っ赤な太陽の下で手に入れるものを、俺達は青白い月光の下で手に入れる。俺達も、君も、本当は何も変わらない。俺達はただ、住んでいるところが、考えていることが、信じているものが、ほんの少し違うだけだ。そしてそれは」
ウサギ「当たり前のことなのさ、アリス」

 闇の支配者と闇の住人、ウサギによるパフォーマンス。
 アリスもパフォーマンスに混ざろうかという意志を見せるが、結局見ているだけ。
 パフォーマンス終了とともに、闇の住人達は去っていく。フクロウのSE、照明が少しずつ暗くなっていき、

支配者「もう君は眠らなきゃいけない時間だな」
アリス「……え?」
支配者「暗闇が一番濃くなる時間だ。俺はもっと深い夜の中に行くよ。さようなら、アリス」
アリス「……あ……」
支配者「……どうしたんだ?」
ウサギ「アリス」
アリス「あ……あのっ」
支配者「……?」
アリス「……あの……あ、ありがとうございました……たくさん、話してくれて」
支配者「……ははっ。ああ、俺の方こそお礼を言うべきだ。闇の中に住む俺にも、まるで太陽みたいな暖かい光で見つめてくれた。ありがとう、アリス……おやすみ」

 頭を上げるアリス。闇の支配者が立ち去る。

アリス「……おやすみなさい」

 アリス、闇の支配者がいなくなると同時に木陰にへたり込み、ゆっくりと目を閉じていく。ウサギ、アリスの側に立って。

ウサギ「おやすみなさい、アリス」

 暗転。
作品名:森と少女~forest 作家名:名寄椋司