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てっしゅう
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「哀の川」 第十五章 杏子の変化

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「バカねえ、前から言っているでしょ!純一の傍に居るって。もう聞かないで、同じことを。それにそんな暇ないし、休みは疲れて寝ているしこの頃は。もうおばさんかも・・・」
「ダメだよ、おばさんなんて言ったら・・・きれいで居て欲しいよ!ボクが大人になるまで」
「うん、そうだったね。約束は守らなきゃね。さあ着いたよ!早く食べて、寝なきゃ朝早いでしょ・・・」

屋台のラーメン屋であった。お客さんに教えてもらったので、その人の名前を言ったら、卵をサービスしてくれた。
「息子さんにも、サービスするよ。はい玉子・・・」
純一は杏子の顔を見て、それから店主に言った。
「ありがとう、でも、ママじゃ無いんだ」
「へえ〜じゃあ、姉さんかい?」
「・・・そうだよ、おじさんカラオケやる?やるならすぐそこだからお店に来てよ。姉さんはそこの、ママなんだから」

しっかりと宣伝をした、純一に感心した。自分のことを気遣ってくれていることが嬉しかった。店主は「絶対に行くよ!」と約束してくれた。

店に戻って、風呂に入り、疲れていた身体を横にしたら、純一はすぐに眠ってしまった。杏子は若いなあと改めて感じた。仕切りを閉めて、自分の布団に入った。このまま何も起こらないことを、ずっと願った。なぜなら、清らかな今の気持ちが心地よいからだ。しかし、男の身体をしている純一はいつか我慢が出来なくなるときが来るように思える。その時に自分は我慢できるか、その行動を制止する勇気があるか、そう考えると自信が無かった。杏子も純一が好きだったからだ。

もう何年もいや、十数年も男を知らない身体でいる。この年にして、健康であれば性欲が無い訳がない。まして、傍に男性が居るのである。たとえ22歳の年齢差があっても、自分はまだ38歳だから女としてはまだまだこれからと言う気持ちがある。純一は16歳、おそらく知ってしまったら毎晩のように求めるだろう。心と身体のバランスが崩れやすい年頃にあって、刺激を与えてはいけないと自分に言い聞かせていた。

「杏ちゃん!朝だよ。ボク学校へ行ってくるから・・・起きなきゃダメだよ」
「うん、ゴメンね、こんな格好で・・・行ってらっしゃい!事故に気をつけてね」
「ああ、行ってきます」

元気に出かけていった。ゆっくりと起きて、朝の支度をして、食事を済ませ掃除と洗濯をして買い物に出かけた。これが日課である。昼ごはんを12時に食べて、13時から店を開店させる。純一が帰ってきて6時過ぎに用意した晩ご飯を別々に済ませる。閉店まで混雑しているときは手伝ってくれていた。休みの水曜日がやってきた。純一に直樹の家に帰ってくるように、朝伝えて、一緒に駅まで出かけた。久しぶりに混雑した地下鉄に乗り渋谷まで行った。両親は杏子の顔を見るなり、駆け寄ってきて抱きついた。

積もる話があったのだろう。何時間も居間で三人は話しこんでいた。直樹と麻子は一緒に昼ごはんを食べた。いつものように麻子の母親が用意してくれていたから、ダイニングで囲むように座り、六人は震災のその後の話しをしていた。仮設住宅が提供されるらしいとニュースがあった。そのことでどうするか話し合いになっていた。

「ずっと住める訳じゃないから、仮設で暮らす事もはばかられるね」杏子が言った。
「姉さん、ボクはよければ両親にこちらで住んで欲しいんだよ。姉さんも居るし。どう母さん父さん?」
「わしらの友達はあそこにしかおらへんで、帰りたいけど、まだ家を建て直す時期じゃないわな。直樹や麻子さんがよければもう少し居させてもらえると助かるけど・・・」
「お義父さん、構いませんよ、ずっと居て下さい。わたし達は仕事で忙しくしていますけど、お好きなように過ごされてごゆっくりして下さい」

麻子は、義父・義母が望むなら、近くで住まいを見つけてあげても構わないと考えている。二、三ヶ月ならこのままで良いし、半年以上ならアパートを借りても良いかなあと、直樹と相談していた。

「父さんと母さんは落ち着いたら近くに引越しした方が良いよ。朝子さんたちに迷惑だから。部屋は直樹に探してもらえばいいから」
「杏子、そう簡単に言うもんじゃないよ。お金だってかかるし・・・」
「大丈夫だよ、直樹はいくら稼いでいるのか知ってる?もう昔の彼じゃないのよ。心配しないで甘えれば良いわ!ねえ、直樹?」
「・・・そうだよ。心配しないで望むなら近くに部屋は借りてあげるよ。考えておいて」

両親はその日遅くまで話し合い、直樹の申し出を受けるかどうか決めかねていた。東京の水はどうもなじまない。考えた末、少し実家からは離れているが、復旧が済むまで大阪市内で暮らすことを決めた。やはり友人や関西の水が恋しかったのだ。家探しが始まり、直樹は契約のために大阪へ行った。地震の後遺症が消えるまで時間はかかりそうだとこの時に強く感じた。

夕刻になって純一が帰ってきた。まだ離れて数日しか経っていなかったけど、麻子は懐かしく感じた。

「ママ、ただいま!義父さんも義母さんもこんばんわ!」
「純一君、久しぶりね。元気にやっているようね」
「うん、楽しくやっているよ。心配は要らないから。それよりお腹が空いたよ!晩ご飯はいつ?」
「パパが終わらないから、どうしようか・・・お寿司の出前でも取ろうか?ねえ、杏子さん」
「そうですね、残しておけば直樹も食べれるし・・・電話してこようか?何人分頼めばよかったのかしら?」
「え〜と、七人分ね。みんな揃っているから、上寿司にしましょう!直樹と純一は一人前じゃ足ら無いだろうから、全部で八人分とって」
「解ったわ。じゃあ電話してくる」

直樹を除いてみんなで寿司を食べて久しぶりに歓談した。遅れて直樹がやってきて、食べる頃にはティータイムに変っていた。遅くならないうちにと、杏子と純一は家を出て帰っていった。なんだか不思議な光景を見るような気分に麻子は襲われた。もう純一は自分の子供ではないようなそんな気持ちだ。その場に居た家族のみんなが純一と杏子の仲の良さを感じ取っていた。直樹の両親は、麻子に杏子のことで心配をかけると、謝っていた。顔には出さなかったが、本当に心配なのである。杏子の伯母としてではなく、女としての部分に。

家に帰ってきた杏子は風呂に湯を張り、簡単に着替えを済ませて、純一と座ってテレビを観ていた。阪神淡路大震災のニュースは連日報道されている。母や父のこれからが心配であったが、報道を見ている限り自分たちが子供の頃に遊んでいた場所は、壊滅していた。悲しい顔をしてボーとしていると、純一が寄ってきて、心配だね神戸は、と話しかけてくれた。何故だかその優しさに、身体を純一に寄せた。その肩を強く抱きしめてくれたことで、杏子の胸は高鳴り自ら約束を破ってしまいそうな感情が湧き出てきた。