僕の村は釣り日和6~和みの川
高田君は目を丸くして叫んだ。彼が信じられないのも無理はない。僕だって未だに半信半疑だ。それでもウグイはルアーに果敢にアタックしてきたのだ。これは疑いようのない事実だった。
僕は大きなウグイを元の流れへと返した。
「おーい、高田ーっ! 今度はヤマメだ!」
上流で東海林君の叫ぶ声が聞こえた。
高田君と僕は東海林君の元へ駆けつけた。東海林君の足元には、25センチ程の美しいヤマメが横たわっていた。体の側面には大きなパーマークという、ヤマメ独特の楕円形の美しい模様がある。尾びれは少し赤く染まっていた。
「綺麗なヤマメだなあ」
僕が見とれていると、東海林君がプライヤーで三本針を外した。それを高田さんに渡す。
「悪いなあ。ヤマメはうまいんだよな。川魚じゃ、アユといい勝負だぜ」
高田君は嬉しそうにヤマメを魚籠に入れた。そう言う高田君の魚籠には、先程の大きなイワナの他に20センチ程のイワナが二匹入っている。いつの間にか釣っていたのだ。やはり数釣りでは餌釣りに分があるのだろうか。
「さあ、どんどん釣ろうぜ」
高田君の顔から笑いが漏れる。僕は少々焦っていた。ボウズ(一匹も釣れないこと)は逃れたものの、せっかく笹熊川の上流まで来て、ウグイ一匹とは情けない。
僕は東海林君を追い抜かして、その先の落ち込みの脇にスプーンを投げた。赤と金の金属は複雑な流れに揉みくちゃにされながら、沈んでいく。神経を釣り糸の先のルアーに集中させ、軽く竿を振ってみた。おそらくスプーンは巻き返しの底で、魅力的なダンスを踊っているに違いない。
すると、そのスプーンを押さえ込むようなアタリが、明確に僕の手元に伝わった。僕はすかさず合わせを入れる。すると、グネグネとした感触が伝わった。先程、高田君が言っていたイワナの感触だろうか。その魚はもがくように身を捩りながら、底へ突っ込み、複雑な流れの中へ逃げようとする。しかし、柔軟で粘り気のある竿は、それに追いつくように耐え、魚をあしらってくれる。僕はブラックバスや50センチのニジマスを釣った経験があるほどだ。このくらいのことでは、もう慌てなくなっていた。
落ち着きながらリールを巻く。すると足元に寄ってきたのは、30センチに満たないくらいのイワナだった。虫食い模様の背中と、ヒレの端が白いのが上から見た時のイワナの特徴だと父が言っていたっけ。
作品名:僕の村は釣り日和6~和みの川 作家名:栗原 峰幸