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僕の村は釣り日和6~和みの川

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 高田君が大きなイワナを手でムンズとつかんで、竹の魚籠に押し込もうとする。
「ちゃんと俺が釣ったって言うんだぞ」
「わかってるって。ルアーのすごさを父ちゃんにも教えてやるぜ」
 そんな二人の会話が微笑ましかった。
「もうすぐ禁漁だな」
 東海林君が寂しそうにつぶやいた。
 笹熊川は十月になるとイワナやヤマメを釣ることができなくなる。魚たちの産卵の季節でもあり、それを保護するためだ。
「なーに、冬には冬の遊びが一杯ある。俺たちがいろいろ教えてやるから、心配するな。さあ、どんどん釣ろうぜ」
 山から吹きおろす風が木々の葉をサワサワと揺らした。豊かな水が流れる音と交ざって心地よい。
 東海林君はテンポ良く、どんどんと上流に向かって釣り上っている。見れば高田君の竿の届かない範囲を狙っているではないか。彼なりに高田さんに気を遣っているのだろうか。
 高田君はじっくりと仕掛けを流している。
 僕も赤と金のスプーンに願いを込めて、流れの中へと放った。
 じっくりと落ち込みの脇を引いてくる。すると金色の輝きの後ろに、黒い影がヌーッと近づいてきたのが見えた。
 次の瞬間、のされるように竿先が曲がった。ずっしりとした重量感が手元に伝わる。
「こっちもきた!」
 僕は必死にリールを巻いた。その魚は何度か流れに突っ込んだものの、意外とあっさりと足元に寄ってきた。
「何だこりゃ、ウグイじゃないか」
 その声に高田君が駆けつけた。
「うわっ、でっけえウグイがルアーをくわえてらあ」
 赤と金のスプーンの一本針をがっしりとくわえて、ウグイは僕の足元に横たわっていた。
「こいつも尺近くはあるんじゃねえか?」
 ウグイの銀色の魚体を高田さんが撫でる。秋から冬にかけてのウグイは「寒バヤ」などと呼ばれ、塩焼きや田楽などでおいしく食べられる。特にイワナやヤマメ、アユなどが禁漁を迎えた後は、タンパク源として昔から重宝されているらしい。
 僕はウグイの口から針を外した。
「どうする? これも持ってく?」
「うーん、大物だけどウグイはいらないや。でも何でウグイがルアーで釣れるんだ?」
 高田君が首を捻った。僕は父とブラックバスを釣りに行った時、「コイやウグイも他の魚を食べる」と聞かされたことを思い出した。
「ウグイも他の魚を襲うことがあるらしいよ」
「えーっ、まさか、ウソだろ?」