僕の村は釣り日和6~和みの川
ブラックバスだけではなかった。こんな小さな村でも、生命は人間の利害関係に利用されもてあそばれているのかと思うと、少し複雑な気分になった。
「俺、先に行くよ」
高田君は大石を飛び越えて、その向こうへと消えた。その時だった。
「うわっ!」
高田君の叫び声が聞こえた。
「どうした?」
東海林君も僕も大石を飛び越える。そこで見たもの。それは野生の猿の大群だった。
猿の群れは、僕たちをにらみつけながら、キーッキーッと金切り声を上げ、威嚇している。歯茎を剥き出しにして、敵意をあらわにしている奴もいる。数では圧倒的に猿の方が多い。形勢は僕たちの方が不利なのは明らかだった。
「どうしよう」
うろたえる僕に高田君が手で制した。
「目を逸らすな。にらみ返すんだ。目を逸らすと襲ってくるぞ」
その言葉に僕の心臓は爆発しそうだった。
東海林君をチラッと横目で見ると、直立不動のまま猿たちをにらんでいる。
キキーッ。
ボス猿だろうか。体格のよい猿が一際大きな声を上げた。猿たちは確実に僕たちとの間合いを詰めてくる。
剥き出した犬歯。鋭い爪。ともに頑丈そうだ。
(もう、ダメだ!)
そう思った時だった。
クワン!
他の猿を一蹴するほどの大きな鳴き声が、どこからともなく響き渡った。
僕たちの後ろで樹の枝がガサッと揺れた。
何と、僕たちの前に躍り出たのは一匹の大きな猿だった。モヒカン刈りのような独特なたてがみが印象的な猿だ。群れのボス猿と、そのモヒカン猿は見つめ合い、にらみ合った。緊迫した時間と空気が流れる。
モヒカン猿の背中には、何者をも寄せ付けない気迫が満ち溢れていた。
どのくらいにらみ合いが続いただろう。ついにボス猿が踵を返した。それに群れが続く。どうやら僕たちはモヒカン猿に助けられたようだ。
「はあーっ、助かったあ……」
僕の足から力が抜けた。我ながらだらしがなかったと思うが、その場にヘタリこんでしまったのである。
高田君と東海林君は立ったまま、そのモヒカン猿を見つめていた。
モヒカン猿がゆっくりとこちらを振り返った。その瞳はどこか優しく、僕たちに慈しみの眼差しを向けてくれているかのようだ。
モヒカン猿は東海林君を見上げた。すると、納得したような表情をして、また樹間へと消えた。
作品名:僕の村は釣り日和6~和みの川 作家名:栗原 峰幸