予感 -糸-
彼女の脳裏に彼のことが浮かんだ。
彼女は、床で鈍く光るペンダントヘッドの金物を見つけると革紐に通した。
ちぎれた箇所は、もともとの結び目に近いところ、少し短くなる程度で済んだことに安堵しながら「大丈夫。気にしない」と急いで結び直した。
外は、もう日が暮れたのだろうか。
部屋の中に入っていた薄明かりだけでは 部屋の中を見づらくなっていた。
ペンダントをチェストの上の小物入れに仕舞おうと 住み慣れた部屋の壁にあるスイッチを手探りで入れた。
その部屋の照明が点いたが、蛍光灯の明かりではなく、昨夜のままの小丸電球が点った。
照明を直そうと ペンダント照明から垂れ下がる紐を掴んだ。
いつものように軽快に 二度紐を引いた。
そして、二度目のあと パチンと、バネの跳ね返るような音がして 明かりが点いた。
「え? 切れた……」
『切れる』ことが、二度続いて 気分は下降気味になった。
ドレッサーの椅子に登り、金具を見ると僅かに結び目だけを残し、千切れていた。
間近に蛍光灯の眩しさと温度を感じながら 指先と爪で結び目を解いた。
残りの紐を その小さな金具部分に結び付ける。
二、三度、手の甲が蛍光灯の電球に触れ、さほどではないが熱く感じたが 頭の中では(私の知る誰にも何も起きていませんように)と願っていた。
程なくして、照明器具も何事も無かったような形になった。紐の調子を何度か引いて点検し、一番明るく照明を点すと気分もそれなりに明るくなった。
「なんでもない、なんでもない。モノにはそれなりの消耗があるものよ」
彼女は、声に出して、頭の中の もやもやを一掃した。
だけど、思考のどこかで世間の口癖が浮かぶ……
『二度あることは、三度ある』