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僕の村は釣り日和5~竜山湖の事実

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「いいのよ。この村では子供はみんなで育てるんだから。いいえ、この村だけじゃない。子供は社会で協力しあって育てるのよ。それが私たち、大人の務めよ。今の秀美ちゃんは気持ちを整理して、自分のこれからの道をどうするか決めること。それが先よ」
 母が諭すように背中をさすりながら語りかけた。
 東海林君の母親はうなだれたまま、「うんうん」とうなずくものの、両手で顔を覆ったまま、しばらく動けなかった。
「私、この村を出て行った人間なのに……」
 東海林さんの母親がうずくまったまま、ポツリとつぶやいた。
「そんなの関係ないさ。秀美ちゃんは秀美ちゃんさ」
 父親が釣竿を車から降ろしながら、明るく言った。
「そうよ。私たち、昔から仲良しだったじゃない。そりゃ、秀美ちゃんは東京の大学に進学して、あっちで結婚しちゃったけど、ここはあなたの故郷なのよ。故郷は帰ってくる者を拒んだりしないわ」
 東海林君の母親が急に立ち上がり、僕の母にしがみついた。その途端、大きな声で泣き出した。まるで笹熊山の頂上まで響くような声で泣いたのだ。
 僕の母がそっと背中をさすってやる。その光景を東海林君はただじっと見つめていた。いつか彼が「一杯一杯だ」と言っていた気持ちが、少しはわかるような気がした。

 それからというもの、学校で東海林君とは、釣りの話題をよくするようになった。ただ、東海林君の話し相手は僕だけだ。他のみんなとは、どうしても距離が縮まらない。
 そして、事件はある金曜日の五時間目に起きた。
 その日の五時間目は家庭科だったのだが、学級委員長の小森さんの裁縫箱が消えたのだ。みんなで教室中の隅から隅まで探すが、小森さんの裁縫箱はどこからも出てこない。
 このクラスにわざと人の物を隠すような、意地の悪いやつはいない。
 小森さんは穏やかだし、頭脳明晰、それにちょっぴりかわいい女の子だ。
 教室中がガヤガヤとした。
 そのうち、ガキ大将の高田君が東海林君の前に仁王立ちになって、険しい顔をして言った。
「小森さんの裁縫箱を隠したの、お前だろ?」
「何で俺がそんなことしなきゃならねえんだよ」
 東海林君と高田君が睨み合った。
「お前はブラックバスだ。よそ者だ。この村には人様の物を隠すような意地悪をするやつはいねえ。そんなことするやつは、よそ者に決まっている」