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僕の村は釣り日和5~竜山湖の事実

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 僕はため池の水を抜かれたことを思い出していた。
「なーに。野生の生物は思ったより自分で活路を見いだすものさ。ブラックバスだって、そうやすやすと人間の思いどおりに駆除されるかな。そういった意味では、ふだん文明に頼ったり、ストレスにさらされたりしている人間の方がずっともろい生物なのかもしれないな」
 父は笑いながらタバコをもみ消した。その笑いがどこか皮肉っぽい。
「それに、エゴで自然をかき乱すのも、人間という生物の特性というか、自然現象の一部なのかもしれないな」
 その父の言葉は子供心ながらも、どこか真理を語っているような気がした。
 太陽はいずれ膨れ上がり、地球を飲み込むという話を、僕はいつか本で読んだことがある。その時、地球上のすべての生物は死滅する。何億年もの先の話だが、地球は確実に「死滅」へと向かっているのだ。だとしたら、今僕たちがしなければならないこととは一体何だろう。
 父は携帯灰皿のフタをパチンと閉めると、湖に背を向け、車に向かって歩きだした。
「そろそろ帰ろうか」
 そう言う父親の背中がどこか寂しかった。今までに見たことのない背中だ。
 東海林君も僕も車に乗り込んだ。車はすぐさま僕たちの玉置村へと向かって滑り出した。
「どうだ、楽しかったい?」
 そう話しかける父の声は、いつもの明るい父親の声に戻っていた。ハンドルを握る手も軽そうだ。父は音楽を少し大きめの音でかけた。僕の知らない英語の歌だ。
 何曲目だっただろうか。あのポールさんが歌った「レット・イット・ビー」が流れた。繰り返される「レット・イット・ビー」というフレーズが、また頭の中を駆け巡る。そうだ。悩んでも仕方がない。今はブラックバスを静かに見守り、成り行きに任せるしかない。僕たちにできることはそのくらいのことだ。
 ただ、勝手に放流するヤミ放流だけはやってはなるまい。それは最低限の釣り人のルールだと思った。竜山湖のようにブラックバスの存在を認めてくれている湖もあるのだから。
 車はグネグネ道を東海林君と僕を左右に振りながら、進んで行った。

 僕の家の前では僕の母と、東海林君の母親が外に出て待っているのが遠くからでもわかった。
 車が家に近づくと、僕の母はいつもの笑顔で迎えてくれた。一方、東海林君の母親は少し不安げな表情を隠せない。
「お帰りなさい」
「ただいまー!」