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僕の村は釣り日和4~賛美歌

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「ワカサギは細長いから水の抵抗も少なくてスピードが出るのさ。一方、ブラックバスはズングリムックリしていて、それほど泳ぐのが得意な魚じゃないんだ。ワカサギがスポーツカーだとしたら、ブラックバスはワゴン車だな」
「じゃあ、何でミノーで釣れるの?」
「だからトゥイッチやポーズで弱った小魚を演出するのさ」
 僕の疑問には東海林君が答えてくれた。
「ブラックバスは弱った小魚くらいしか食えないのさ」
 意外な事実だった。何でも食い荒らすどう猛なギャングというレッテルを貼られた魚の正体は、実は意外と狩りが下手くそらしい。
「まあ、泳ぐ力のない稚魚なんかは別だけどね。それでも何でもかんでも食い荒らすというのは違うと思うな」
 父が補足した。
 僕はまたミノーを投げた。複雑な思いでリールを巻く。
 やっぱり巻くスピードやポーズの入れ方などがよくわからない。竿先をツンツンさせながらリールを巻くと、どうしても速く巻き過ぎてしまう。
 かといって、ツンツンしなければ、ミノーはただの棒のようで、魅力的な動きをしてくれない。
「ヒット!」
 今度は東海林君が叫んだ。僕はうらやましそうに彼を見た。自分の技量のなさが情けなかった。
 その時、僕の糸の先が何かにひったくられたかと思うと、急に手元に重みが伝わった。竿は折れそうなほどに曲がっている。
「き、きたっ!」
「おお、ダブルヒットか」
 父親が驚いたように僕たちの方を向いた。
「健也、竿を立てろ!」
 父親が叫ぶ。父親も僕の掛けた魚が相当の大物であることを理解したらしい。
 チラッと横目で見ると、既に東海林君はブラックバスを手にしていた。
 僕の魚は湖底へとうねるように潜り、一向に姿を見せない。かと思うと弾丸のように走りだす。リールからジリジリと糸が引きずり出されていく。
「こりゃ、バスじゃないな」
 父がつぶやいた。
 糸を巻いては引き出され、また引き出されては巻く。そんなやり取りを何分続けただろうか。
ようやく魚が足元に寄ってきた。50センチほどはあろうかという大きな魚だ。
 魚が一瞬、体を横たえた。その瞬間に見えたのは赤紫のきれいな帯だった。
「ニジマスだ。慎重に寄せろ」
 体力を使い果たしたニジマスは最後、ユラーッと岸辺に寄った。
 父がエラに指を入れ、尾をつかんで岸へと引きずりあげる。