僕の村は釣り日和3~バスフィッシング
僕は東海林君に促されて、魚を水へ戻した。東海林君を見習って、何度か魚体を前後させ、エラに水を通すようにする。すると少し弱りかけていたブラックバスはみるみるうちに回復し、元気に沖へと泳ぎ出していった。
「初めてのブラックバス、おめでとう。ちゃんとリリースまでできたね」
背後で父の声がした。
「お父さんは釣らないの?」
「夕方になってから釣るよ」
父はそう言うと、またパイプ椅子へと戻り、本を広げ始めた。
「今日はコンディションがいいぜ。さあ、釣ろう」
東海林君はそう言うと、またワームを投げた。僕も投げる。
やはり友達と釣りをするのは気分がいいものだ。そんなことを思った午後だった。
夕陽が山を紅く染め始めた頃、父が竿を持って近寄ってきた。釣り糸の先には、あのズングリムックリのルアーが付いている。
「これからの時間はクランクベイトでよく釣れるんだ」
父のリールは東海林君がかじりつくように見ていたアンバサダーの5000Cだ。
父の言葉を聞いて東海林君が車に戻った。そして同じようなベイトキャスティングリールの付いた竿を取り出すと、父からプレゼントされたバルサ50をぶら下げて戻ってきた。
「さっそくそれを使うのかい? そのリールはカルカッタ200だね?」
父の目が輝いた。
「ええ。お父さんの形見なんです」
「そうか。それじゃあ、大切に使わないとな。そのカルカッタは二代目だね。初代は回転が良すぎてバックラッシュをよく起こしたんだ。それで改良されて二代目が登場したんだ」
バックラッシュとはリールの糸がモジャモジャにからまることだ。ベイトキャスティングリールは熟練しないと、このバックラッシュがよく起こる。だから僕はスピニングリールしか使えないのだ。
「健也もクランクベイトに変えるか?」
父親が小さめのズングリムックリを渡してくれる。メタリックに輝く、きらびやかなルアーだ。
「ダイワのピーナッツ?っていうルアーだよ。けっこう釣れるんだぞ」
よく見ると、そのルアーにも細かい傷がたくさん付いている。おそらくたくさんのブラックバスが、このルアーに噛み付いたのだろう。
こうして、三人並んでズングリムックリを投げることになった。
意外にも、最初に魚を掛けたのは僕だった。リールをただゆっくり巻いていると、不意に竿が引ったくられるように重くなった。そして魚が暴れだす。
作品名:僕の村は釣り日和3~バスフィッシング 作家名:栗原 峰幸