僕の村は釣り日和3~バスフィッシング
僕も負けまいと、すぐにワームを沖へ向かって投げただが、それは投げ損ないのライナーとなって、足元にポシャリと落ちてしまった。
「あーあ、指を放すタイミングが遅すぎるんだよ。力まないで軽く投げてみろよ」
東海林君が僕にアドバイスをくれた。目の前で立て続けに二匹も釣られて、僕も少しあせっていたのだろうか。
僕は後ろを振り返った。父はパイプ椅子を持ちだし、優雅にタバコをふかしている。家をリフォームしてからというもの、父は家の中でタバコを吸わせてもらえない。いわゆるホタル族というやつだ。こんな時くらい思いっきり吸いたいのだろう。
それにどうやら父は、僕と東海林君の関係に口を挟む気はないらしい。
僕は気を取り直し、リラックスした気分で竿を振った。すると今度は沖に向かって、曲線を描いてワームが飛んでいった。
「ナイスキャスト。やればできるじゃん」
「えへへへ」
僕は照れながらリールを巻き始めた。
「ゆっくり巻くんだぞ。ワームが湖底をはいながら、ユラユラ揺れるイメージでな」
僕は想像する。糸の先につながれたワームは今、湖底に着いたり、ちょっと浮いたりしながらブラックバスを誘惑しているに違いない。
僕は竿先をツンツンと動かしながら誘いつづけた。モゾモゾとした感触は藻だろうか。
何度かワームを回収しては投げる動作を繰り返す。何投目だっただろうか。僕の手元に藻とは明らかに違うググッとした魚の感触が伝わった。そして竿先が一気にしぼり込まれる。
「き、きた!」
僕は竿を立てて、反射的に合わせていた。魚が掛かった時には、針掛かりするように竿を立てて「合わせ」という動作をする。それは餌釣りでも同じことだ。
「きたか。スプリットショットの場合はもっと優しくゆっくり合わせた方がいいんだけど、バレていないか?」
東海林君が僕の竿先を眺めながら、心配そうに言った。だが竿は弧を描くように曲がっている。
ちなみに、「バレる」とは釣り用語で、掛かった魚が針から外れて逃げられることをいう。
「大丈夫。バレてないよ。しっかりと掛かっているみたいだ」
僕は必死にリールを巻きながら答えた。その時、銀色の魚体が跳ねた。僕の心臓の鼓動はドックン、ドックンと高鳴り、竿を握る手からも汗が出ているようだ。リールをつかむ竿のグリップが汗で滑りそうなくらいだ。
「落ち着け、落ち着くんだ!」
作品名:僕の村は釣り日和3~バスフィッシング 作家名:栗原 峰幸