僕の村は釣り日和3~バスフィッシング
「まあ、琵琶湖でもバス釣りのガイドがいるからね。観光資源として成立しているとは思うんだけど……。とにかくこの湖は漁協がバスの存在を認め、放流しているんだ。だからここに来る前に遊魚券を買っただろう?」
父が湖を見渡しながら言った。
「漁協って、村の笹熊川にもある……」
「そう、漁業協同組合のことさ。魚の管理をしている団体なんだよ。この湖ではブラックバスも大切な資源として認められているんだね。遊魚券もそうだし、貸しボートなんかでももうかるだろう?」
「ふーん」
ブラックバスは日本のどこへ行っても悪者扱いされていると僕は思っていた。しかし、このような湖もあるものなのか。
東海林君はブラックバスの口から針を外すと、優しく水へ返してやった。手で魚体を支えながら、何度かエラに水を通す。するとブラックバスは元気にくねりだし、やがて彼の手から離れ、沖の群青色の水の中へと消えていった。
「お前も早く支度しろよ。一緒に釣ろうぜ」
東海林君に促されて、僕はまた釣り支度に戻った。糸の結び方がうまくいかなくて、何度も結び直す。あせると糸がヨレてしまう。それでも父は黙って僕の仕草を見ていた。
結局、支度ができるまでに十五分程はかかっただろうか。僕も東海林君と同じくワームのスプリットショットリグにした。そして僕が彼の元に駆けつけた時には、既に彼は二匹目の魚を掛けていた。
東海林君の竿は柔らかいのだろう。満月のようにしなっている。
「さっきよりのかはいいサイズだ」
そう言いながら、彼は竿を上下左右へと振って、魚の動きに合わせている。
水しぶきが炸裂した。太陽の光を反射して輝く湖面に、銀色の魚体が跳ねる。サングラスが欲しくなるまぶしさだ。跳ねた魚体は確かに先程のやつより大きそうだった。
東海林君が慎重に魚を寄せる。そして先程と同じく口の中へ指を突っ込み、魚体を抜き上げた。
「35センチくらいはありそうだな」
僕はポカーンと口を開けたまま、その魚体に見取れていた。
大きく開いた口。意外とつぶらな瞳。背びれは尖っていて、触ると痛そうだ。
東海林君は今度もブラックバスを水へと返した。
ブラックバスの釣りはキャッチ・アンド・リリース、つまり釣ったら逃がすのが基本である。それがゲームフィッシングと言われるゆえんだ。
作品名:僕の村は釣り日和3~バスフィッシング 作家名:栗原 峰幸