僕の村は釣り日和3~バスフィッシング
背後で東海林君の大きな声が響いた。振り返ってみると、彼の竿が大きくしなっているではないか。僕は道具をそのままにして東海林君の元へ駆けつけた。
水面で銀色の魚体が跳ねた。
「やった。すごいじゃん」
「なーに、小さい、小さい」
東海林君はそう言うが、僕にはそう思えなかった。先程跳ねた魚体に圧倒されたのかもしれない。それに竿だって大きく曲がっている。
東海林君は竿の角度を微妙に変えながら、リールを巻き続けた。すると黒っぽい魚体が近くまで寄ってきた。だが魚は僕たちの姿に気付くと、また沖へと走りだした。
「くっ、このファイトがたまらないんだよな」
東海林君は竿をためながら、嬉しそうにつぶやいた。
ユラーッとまた魚が寄ってきた。今度は竿を大きく持ち上げて、魚の顔を水面に出す。
魚が口を開けてもがいた。だが、東海林君は素早く魚の口に指を入れ、親指と人差し指で魚の下あごをつかむと、そのまま一気に抜き上げた。魚は尾をばたつかせながら抵抗するが、あごをしっかりとつかまれているため逃げられない。
東海林君が高々と揚げた魚は、背中は黒く、腹は銀色で、体の脇に黒い大きな斑点がある。間違いない。ブラックバスだ。大きさにすると25センチほどか。
「すごい、これがブラックバスか」
「何だ、本物見るの初めてか?」
「うん。間近で見るのはね」
「俺も久々に釣ったよ。サイズとしてはちょっと小さいけど、いいファイトをしたぜ」
東海林君は得意げな笑顔をたたえて、ブラックバスを繁々と見つめていた。久しぶりのブラックバスとのご対面に感動しているのだろう。
「いやー、お見事、お見事。さすがだね」
父が拍手をしながら近寄ってきた。父も繁々とブラックバスの魚体を眺める。
「この湖には滋賀県の琵琶湖からブラックバスが移植され、放流されているんだ。だから相当デカイのもいるはずだぞ」
父がブラックバスの魚体をなでながら言った。
「何でわざわざ琵琶湖からバスを持ってくるの?」
僕は素朴な疑問をそのままぶつけた。
「琵琶湖じゃ迷惑な魚なんだよ。嫌われ者だからな。ブラックバスは」
答えてくれたのは東海林君だった。
作品名:僕の村は釣り日和3~バスフィッシング 作家名:栗原 峰幸