僕の村は釣り日和3~バスフィッシング
東海林君はハキハキと答えた。この時彼が、亡くなった父親のことを思い出し、悲しんでいるようには思えなかった。
「そうか。それもお父さんの大切な遺産だな」
僕は父のその言葉を聞いてハッとした。僕が今まで父から教わったことって何があるだろうかと考える。しかし、すぐには頭に浮かばない。
僕がボーッとしていると東海林君は釣りの支度にかかっていた。
「ここは緩やかなカケアガリで、沖にはウィード(藻)が生えてる。夕方にはクランクベイトでいい型が狙えるよ。今の時間ならワームが有利かな」
父が東海林君に助言した。すると彼は取り出した竿を一旦しまい、別の竿を取り出した。太鼓型のリールではない、スピニングリールというリールが付いている竿だ。
太鼓型のベイトキャスティングリールが電気コードの巻き取りリールに似ているのに対し、スピニングリールは糸をつむぐように巻き取っていく。扱いも簡単で、初心者でもちょっと練習すれば投げられるようになる。
「じゃあ、スプリットショットリグで狙います」
「おじさんもそれがいいと思うよ」
東海林君は手際よく準備を進めていく。釣りのうまいやつはだいたい準備が早い。糸の先にはワームがぶら下がっていた。
ワームとはプラスティックゴムなどでできたミミズのような形をした柔らかいルアーのことだ。それに専用の針を付けて使用する。よく見ると、ワームの上に小さなオモリが付いている。よく川で釣る時に使うガン玉オモリにそっくりだ。
「これがワームのスプリットショットリグだ」
「スプリットショットって、そのガン玉のことかい?」
「そうとも言う」
東海林君が苦笑いをした。
「スプリットショットはガン玉、リグは仕掛けって意味さ」
「ルアー釣りって何でも英語にしちゃうんだね」
「チッチッチッ、ルアーフィッシングって呼んでくれたまえよ」
東海林君の竿が風を切った。ワームは緩やかな曲線を描いて飛んでいく。
僕も無性に釣りがしたくなって父の元へ駆け寄った。父に手伝ってもらって準備をする。リールは東海林君と同じスピニングリールだ。
ベイトキャスティングリールは僕には扱えない。あれは投げるのが難しく、熟練を要するのだ。下手に投げればリールの糸がグチャグチャになってしまう。だから僕が扱えるのはスピニングリールしかないのだ。
僕が針を結んでいる時だった。
「ヒット!」
作品名:僕の村は釣り日和3~バスフィッシング 作家名:栗原 峰幸