僕の村は釣り日和3~バスフィッシング
「ああ、それね。それはおじさんのお父さん、つまり健也のおじいちゃんからもらったものなんだ。当時としてはずいぶんとハイカラなじいさんでね。ルアーが好きだったんだな。よく銀山湖へ行って大きなイワナやサクラマスを釣っていたよ。ブラックバスも芦ノ湖とか河口湖とか釣りに行っていたんじゃないかなあ。アブのリールは頑丈だから手入れさえしっかりしておけば何年でももつよ」
東海林君は父親のリールと自分のリールを見比べている。僕も見るが、色の違いだけで形はよく似ている。丸い太鼓型のリールで、正式にはベイトキャスティングリールという。
「君のリールも似ていないか?」
僕が東海林君にそう尋ねると、彼は腕組みをして得意そうに解説を始めた。
「俺のリールはシマノのカルカッタだ。俺には最高のリールさ」
「リールにはこだわる人が多いからね」
ここから先、父と東海林君は釣り道具の話を延々と続けた。正直、僕にはついていけなかった。
しばらくすると、竜山湖が見えてきた。
青い湖面に太陽が反射して、キラキラとまぶしい。僕は思わず目を細めた。
近所のため池も時にまぶしく光る時がある。しかし、いつも近寄ってみると、淀んだ緑色をしている。
それに比べて竜山湖の湖面は遠くから見る限り、限りなく青に近い。そこに太陽の光が命を与えるように降り注いでいるのだ。初めてのブラックバス釣りということもあるが、僕は何か心が踊るような期待を竜山湖に寄せていた。
車は湖畔の空き地に停まった。僕と東海林君はすぐさま駆け出し、湖面を覗き込む。
やはり、ため池の水とは違い、格段に澄んでいる。僕たちが近寄ると、慌てたように何かの稚魚が隊列を組んだまま右往左往していた。
「うーん、クリアウォーターだな」
東海林君が呟くように言った。
「クリアウォーターって?」
「澄んだ水のことだよ。その反対がマッディウォーターっていうんだ。ちょうど村のため池がそれだよ」
東海林君の目はそのクリアウォーターのように澄んでいる。学校でつまらなそうに淀んだ目とは正反対だ。
「さすがはバスマンだ。言葉もよく知っているね」
後ろに立っていた父が、東海林君に笑いながら声を掛けた。
「ええ。死んだお父さんもバス釣りが好きだったんで、よく連れていってもらったんです。そのうちに自然と言葉も覚えました」
作品名:僕の村は釣り日和3~バスフィッシング 作家名:栗原 峰幸