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僕の村は釣り日和3~バスフィッシング

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 東海林君と大物との駆け引きは続いた。東海林君は魚の動きに合わせて竿の角度を変えたり、リールを巻く早さを変えたりしている。
 一方、魚も負けてはいない。何とか針を外そうと、ジャンプしたり、潜ったりして必死の抵抗を見せる。
 跳ねた魚体からして、やはりかなりの大物だ。ポールさんのお腹のような、でっぷりとした銀色が夕陽に染まってオレンジに見えた。
 ついに、東海林君の勝利の時がやってきた。疲れきった大きなブラックバスは体を横に向け、近寄ってきたのである。僕はそのあまりの大きさに圧倒されてしまった。と言うより、恐ろしささえ覚えた程だ。ブラックバスの口には三本針がガッチリと食い込んでいる。これならバレることはあるまい。
 よく見ると、東海林君の膝が震えている。いや震えているのは膝だけではない。体全体が震えている。
「大丈夫か?」
「あ、ああ、たぶん」
 そう言う声も震えていた。きっと彼もこれほどの大きさのブラックバスを釣り上げたのは初めてなのだろう。
「ランディング(取り込み)はまかせて」
 父が水辺へ近づいた。父の影を見て、ブラックバスはまた沖へと突っ走る。東海林君の竿がきしんだ。
 だが彼がゆっくりと竿を持ち上げると、魚はまた浮いてきた。
「こいつもよく頑張った」
 父は大きなブラックバスを褒めたたえた。東海林君がリールを巻き取り、一段と高く竿を持ち上げる。すると、ブラックバスの大きな口がガバッと水面で開いた。それは僕のこぶしなど簡単に入ってしまいそうな、大きな口だった。
 父親はブラックバスの下アゴをつかむと一気に抜き上げた。水しぶきが舞い、でっぷりとした魚体が夕映えの空に輝いた。
「オー、ビッグ! オー、ファット!」
 ポールさんもさすがに東海林君の釣り上げたブラックバスの大きさに驚いている。
 東海林君が父親からブラックバスを受け取り、下アゴをつかむ。その大きさと重量感を確かめているようだ。
 その時、彼は笑ってはいなかった。むしろ目が潤んでいたように思える。もしかしたら天国にいる彼の父親に報告しているのかもしれない、と僕は思った。
「すげえバスだな。こんなのもいるんだな」
 僕が驚いていると、東海林君はていねいに針を外し、魚体にメジャーを当てた。
「53センチ。俺の新記録だ」
「やったね。おめでとう」
 僕は手を差し伸べた。
「ありがとう」