僕の村は釣り日和3~バスフィッシング
金髪のおじさんが豪快に笑った。
「クローズドフェイスリールって?」
「今の日本じゃ、あまり見なくなったけど、ああいうリールもあるんだよ。うちにも天袋を探せばあるんじゃないかな。捨ててはいないと思うけど」
父が懐かしむように、おじさんのリールを眺めながら言った。
「オー、ヒット、ヒット!」
おじさんの竿が絞り込まれた。おじさんは愉快そうに笑いながら、魚の引きを楽しんでいる。
「アーハッハッハッ!」
おじさんのふくよかな笑顔を見ていると、こちらまで笑いたくなる。おじさんは魚をそのままゴボウ抜きにした。
「まずはワイフ(妻)のおかずね」
おじさんは満足そうにブラックバスを握り締めた。そして金属性のストリンガーという道具に魚をつなげる。
「ブラックバスを食べるんですか?」
僕はブラックバスを食べる話など聞いたことがない。目を丸くしておじさんに尋ねた。
「アメリカでは普通に食べるよ。もちろんゲームフィッシングの対象でもあるけど、皮をむいて食べるとおいしい魚です。キャッチ・アンド・リリースも大切だけど、日本人は何でも形にこだわり過ぎね」
おじさんがにっこり笑いながら答えた。
「確か、芦ノ湖に行った時、ブラックバス料理を出しているレストランがあったな。聞いた話ではスズキに似ているらしいけど」
父が少し考え込むような顔をしてつぶやいた。
「私、ポールといいます。そこでペンションを経営しています。ブラックバス料理はなかなか評判ですよ。でも今日は土曜日なのに予約客がゼロ。だからワイフと私の分だけ釣れば十分ね」
東海林君は会話に参加せず、黙々とルアーを投げては回収している。何か執念に取り憑かれているようだ。目付きが昼間とはまるで違う。
「オー、クレイジーボーイ!」
ポールさんがそんな彼を見て、また豪快に笑った。
その矢先だった。東海林君の竿が大きく曲がった。彼が今使っている竿はそれなりに硬いはずだ。それが根元近くから曲がっている。かなりの大物だ。
「ヒット!」
東海林君の声が夕暮れの岸辺に、一際大きく響いた。
「やったね。デカそうじゃん」
「40センチオーバーは確実だろうな」
父は目を細めて笑いながらも、どこかうらやましそうな顔をしている。
作品名:僕の村は釣り日和3~バスフィッシング 作家名:栗原 峰幸