僕の村は釣り日和2~バルサ50
「おいおい、それはいくら何でも短絡的すぎないか? 日本にも他の魚を食べる魚はたくさんいるぞ。それにブラックバス以外にも輸入された魚で他の魚を襲う魚はいる」
僕は東海林君が釣り上げたカムルチーを思い出した。あの時、彼は「なんでこいつは許されるんだろう?」って言っていたっけ。その答えはまだ僕には見つけられていない。
「そうだ、健也。そういえばお前、まだブラックバスを釣ったことなかったな」
「うん」
「どうだ、今度の土日に秀美ちゃんの息子を誘って竜山湖にでもバス釣りに行こうか? テントでも持っていってさ」
「いいねえ、いいねえ」
僕はすぐ父の誘いに飛びついた。ルアーといえば、まだマス釣り場のニジマスしか釣ったことがない僕が、野生のブラックバスを釣ることができる絶好のチャンスだ。しかも東海林君と一緒ならば楽しい釣りになるに違いない。
「それはいい考えね」
台所仕事を終えた母が、父の肩に手を乗せて笑った。父も母の顔を見て笑い返す。こんな家族のだんらんが僕は好きだ。外で辛いことがあっても、仲良くやっていける家族に支えられているのだと思うと、胸がジーンと熱くなることがある。
「母さん、秀美ちゃんのところに早速電話をしてみてくれるかい?」
母が手でOKサインを出しながら電話の方へ向かった。
僕はその夜、父と随分と釣りの話しをした。これまでそれほど釣りに熱中していたわけでもなかった僕が、次から次へと質問責めにするので、父は僕にわかりやすく答えるのに忙しそうだった。
何しろ釣り用語は難解な言葉が多い。ルアーの世界となると横文字だらけだ。まだ英語すら習っていない小学生には少々きつい。
時々、電話の方から母のすすり泣く声が聞こえた。おそらく東海林君のお父さんが亡くなった時の話をしているのだろう。でも僕は聞かないふりをした。母の電話は子供が聞いてはいけない世界のような気がした。何となく、そんな気がした。
「東海林君、今度の土日、OKだってよ」
電話口から戻ってきた時の母は、いつもの母の笑顔に戻っていた。
「やったぁ!」
「彼も楽しみにしてるみたいよ」
母は腰に手を当てて、自慢げに言った。まるで仲人をしたつもりででもいるのだろうか。
「そうだよ。あいつもストレスたまっているだろうから、息抜きさせてやらなきゃ」
「あ、お父さんだって仕事でストレスたまっているぞ」
作品名:僕の村は釣り日和2~バルサ50 作家名:栗原 峰幸