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僕の村は釣り日和2~バルサ50

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 父はテレビのリモコンのスイッチを切った。キッチンからは母が皿洗いをする水の音が聞こえる。
「ブラックバスはね、大正時代に日米親善のために赤星鉄馬という人が、初めて日本に移植したんだ。放流されたのは神奈川県の芦ノ湖。それから昭和の時代になってゲーム感覚で釣りをする人が増えたんだな。ルアー釣りは餌も使わないし、西洋風で格好いいっていうんで、ジワジワと人気が出てきたんだ。ルアー釣りをする人の中にはただ『釣り』を楽しむだけの目的の人も多くいたんだ。釣り用語でキャッチ・アンド・リリースって言うんだけど、釣った魚を逃がすんだ。何しろ釣って魚との駆け引きを楽しむための釣りだからね。それまでの釣りはキャッチ・アンド・イート。つまり釣ったら食べるのが当たり前だったんだ」
 僕の父は酒が入ると舌がよく回る。
「ふーん。それでブラックバスはどうなったの?」
「そこさ。ゲーム感覚の釣りはおもしろいし、カッコイイってことでブラックバスは人気が出て、各地に放流されたんだよ。釣り具メーカーもこぞってバス用品を開発してね。ちょうどお父さんの青春時代だなぁ」
 父は腕組みをして天井を見上げている。どうやら、思い出に浸っているようだ。口元はニヤニヤしている。
「それで、それで?」
「うーん。その頃からもブラックバス害魚論がなかったわけじゃないんだ。それなりに研究も行われていたと思うよ。ちょっと古いけど一九七〇年代に茨城県の牛久沼でブラックバスの胃の内容物の調査が行われたんだ。その結果、ブラックバスの胃の中から出てきたのはほとんどアメリカザリガニやカエルだったんだよ。小魚はほとんど入っていなかったんじゃなかったかな」
「ふーん。ブラックバスって魚は食べないんだね」
 僕は少し安心したような気がして、父の膝の上から降りた。
「安心するのはまだ早いぞ。ブラックバスは魚を食べる。これは確実なことだ」
「だって今、胃の中からはザリガニやカエルしか出てこなかった、て言ったじゃないか」
 僕の一旦穏やかになった心臓が、また早く打ち始めた。
「お父さんは釣りに行った時、何度も小魚を襲うブラックバスの姿を目撃している。彼らは確実に魚を襲って食べる。これは事実だ」
「じゃあ、やっぱりブラックバスは悪者ってこと?」
 僕は不安に駆られて、思わず聞き返した。