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僕の村は釣り日和2~バルサ50

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 僕はこの時、東海林君も僕と同じ屈辱を味わっていたことを知った。
 東海林君が顔を上げた。傾きかけたオレンジ色の夕陽に照らされた彼の目は、やっぱりちょっと潤んでいる。
「それにさ、空手の先生は言っていたよ。空手は体だけじゃなく、心も鍛えるものだって」
 そう言い終えた時、東海林君は握っていたこぶしを解いた。
「君は十分強いよ」
 先日の高田君との取っ組み合いといい、今朝の切り返しといい、東海林君は本当に体も心も強いやつだと思ったものだ。
「冗談言うなよ。これでも一杯一杯なんだぜ。家に帰ればお母さんはお父さんの遺影にしがみついて毎日泣いているしさ。俺くらいはしっかりして、元気なところ見せないとな」
 東海林君は再び拳を強く握り締めた。そしてその言葉は、まるで自分に言い聞かせているようだった。この時、僕は彼の背負っている重荷を少しでも理解してあげたかった。
 僕たちは僕の家の前で別れた。僕は帽子を脱いで大きく振った。
「今日はありがとうな。僕も頑張るから、お前も頑張れよーっ!」
 夕陽の中で大きく帽子が揺れ、「おーっ!」と元気な声が返ってきた。この時はもう、不思議と怒りは収まっていた。

 夜になって僕は居間で晩酌をする父に、今日の学校でのことを話した。
「あはははは、お父さんは悪者か?」
 父は怒りもせず、焼酎の水割りをチビチビすすっている。
「お父さんは悔しくないのかい?」
 もう僕の怒りは収まりかけていたが、心の棘が完全に抜けたわけではなかった。
「このあたりは農家が多いからなあ。それだけ素朴で昔からの伝統が守られていて、いい村だと思うんだけど、そういう所は得てして新しいものを受け入れない風土を持っているんだよ」
「ブラックバスもそのひとつ?」
「まあね。でも、それは世論によるところが大きいかな。マスコミなんかもこぞってブラックバスを叩くだろう。最近は行政もブラックバス対策に乗り出している」
「やっぱりブラックバスは悪い魚なの?」
 僕は身を乗り出して、父の顔の前に顔を突き出した。
「お父さんはそんなに悪い魚だなんて思っていないよ。むしろ人間の都合のいいように利用された可哀想な魚だと思うな」
「それって、どういうこと?」
 僕にはブラックバスと可哀想というイメージがどうも結び付かなかった。