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無効力恋愛

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「ご賛同いただきありがとうございます。では大まかな戦略を述べさせていただきます。まず、当クラブの活動目的は映像作品の鑑賞および作成となっておりますので、作品を制作しなければなりません。この場合は写真あたりが一番よろしいのではないでしょうか。個人製作として夏休み中に、適当に撮ってきてください。一人最低二枚。なに、グロじゃなければ、ロクなもんじゃなくて結構です。誰も期待してません。機材、技術、および現像に関する相談は、英(はなぶさ)副部長にお願いします」
「……聞いてないぞ」
「お前しかいねーだろ。次に『鑑賞』の方ですが、出来ることなら映像作品に纏わる批評などを書いていただきたい。僕の選んだ映画ベスト5でも結構です。それを冊子、或いはパネルにして展示します。これは写真より時間が掛かるので、掛け持ちの二人には強制は致しません。残り二人は強制」
「残り三人だろ。さりげなく自分除外すんな」
 安達は四人の突っ込みを全て黙殺し、演説を続けた。
「さて、以上のままでは学校は納得させられても、展示室にねーちゃんたちは来てくれませんね。女性向けのアピールが必要です。女の子の好きなもの、それは『カワイイ』です。奴等に『カーワーイーイー』と言わせられたらコッチの勝ちです。因みに奴等のカワイイの中には、『気持ち悪い』『小さい』『珍しい』『よくわからない』『イケメン』等が含まれます」
「安達先生ー、後ろ二つがよく判りませーん!」
「お待ちなさい。今説明します。まず女子は見た目から入るというので、展示室を可憐に装飾します。ここで気をつけたいのは、熊のぬいぐるみなど飾ってもしょうがないということです。アーティスティックな不思議空間の演出、これがキモです」
「安達先生、自分で何言ってるか判ってますかー」
「先生がTVチャンピオンやビフォアアフターで研究したところによると、光使いと布使いが重要らしいですよ。この辺は、数々の賞を受賞された名パティシエ平井源五郎氏を父に持つ平菓子部長にお任せしたい。幼い頃から女性客相手の平井洋菓子店でお過ごしの部長、女性を捕らえる店内演出もお手の物でしょう」
「はあ? なに言い出すの。俺んち超タタミだよ? お前んちの畳だよ。安達畳店!」
「存じておりますよ。先日は張替えの発注ありがとうございます。さて、次からが重要。皆様の協力が必要になってきます。先生は共同制作を提案します」
 ここで安達は一呼吸おき、ペンで十貴と武辺を指し示した。二人は思わず顔を見合わせる。
「申し遅れましたが、白宮さん、この度は地区大会優勝並びにインターハイ出場おめでとうございます。武辺さんのバスケ部も、敗れはしたものの、準決勝進出は大変優秀な成績です。おめでとうございます。このような才能あふれる人材を擁する事実は、映像部にとって大変な幸運であります」
「こんなに嬉しくない祝福もめずらしいな」
「すげえ嫌な予感する……」
「女性がカワイイものを好むと言う話は先にしましたが、その中にはイケメンが含まれます。これもさっき話しましたね。はっきり言います。キャンディースの歌にもある可愛い男の子、コレに勝る餌はありません。おめでとう。君達は可愛い男の子に認定されました」
 安達は二人に拍手を送った。十貴は急激な疲労感を覚えた。横に目を向けると、武辺も同様に倦み果てた表情を見せている。所謂、ドン引きというやつだ。
「……いや、そう言うのマジいらないから……」
「褒めてますよ? まず武辺くんは中学時代も大変おモテになっていたとか。そうですね、バスケをしている様子やお顔だけを拝見していると、とても『汁だく団地妻』だの『いけない奥さん危険なバイト』だのをコレクションしているとは思えない爽やかさ」
「貴様……」
「白宮くんの無駄に剥きたまごなお肌と目デカ、睫毛長、でも目付き悪めなところも、上映会をすると言ってもなかなか来てくれない清潔さが表れていて良いですよ。まあ『ぷるるん爆乳モミ放題』なんて判り易いタイトルのときはどこからかやって来ることもあるみたいですが」
「うるさい。黙れ」
「そんな二人には是非被写体をやっていただきたい。なに、普段の練習風景を撮影させてくれるだけでいいんです。練習記録だと思えば何てことないでしょう? 運動神経に長けた男子はそれだけでも格好よく見えるらしいですよ。だから私は運動着を着ているのです」
「それは面白いと思って言ってるのか?」
 平井がすかさず突っ込んだが、安達は一瞥もくれず続けた。
「餌にならない平菓子くんは口を挟まないでください。武辺くんは、バスケ部全員の撮影許可を貰わないといけませんが、出来たら練習後も付けて、男同士の友情ものっぽい流れを映像に持たせたいですね。女の子は意外とそれが好物です。白宮くんは個人競技ですし、君一人を撮る分には問題ないでしょう。適当に編集して音楽付けて、プロモーションビデオ風に仕上げたい。恥ずかしいですね。我慢してください。なんていうか、ナイキのCMみたいなカンジでも可。撮影は、英『僕の先生はチェリーがお好き』理人宗匠にお任せします。なんならインハイについて行けばいい。白宮選手の撮影は得意分野でしょうから」
 やおら理人が立ち上がる。
「安達、殴っていいか!」
「おーやおや? 英宗匠、何をいきり立っているんですか。貴方が二年前、陸上の競技写真でY新聞会長賞を受賞したのは有名な話じゃないですか。アレに映ってるの白宮さんでしょう。拝見しましたがスピード感のあるいいお写真でしたよ。その話をしているのに、何かヤマシイところでもあるんですかああ?」
「……! お前……ッ!」
 理人はうなり声のようなものを上げながら、腰を下ろすと、頭を抱えて黙った。
「……英(エイ)、大丈夫か。『チェリーがお好き』が好きでも別にいいじゃないか、今更気にスンナ」
「!! あんたもいいから黙っててくれないか!」
 十貴は慰めたつもりだったが、逆効果だった。理人の声は最早、半泣きである。
「武辺さんのほうの撮影は私と部長が受け持ちます。それに実際、武辺さんや白宮さんの試合の応援に行くと、あなた方、他校の女子に人気ですよ。一般席で、あの十七番超かっこい〜ん、だの、あの三コースの子足なが〜い、だの聞こえてくると、まずお前らのことです。はっきり言って先生、君達のこと嫌いになるところでした」
「ていうかいつ試合来てんだよ……一般席って。顔見せに来いよ。初めて聞いたよ……」
「そんな嘘臭い応援、先生嫌いだな」
「よく判らんこだわりだな。でもありがとよ」
「お、それは承諾とみていいんだな。まあ短くまとめると、写真少しと,武辺、白宮を使ったビデオ映像を展示し、室内装飾にも拘る、てことだな。以上!」

 安達はさすがに喋り疲れたらしく、深々と溜息をつくと、開口部にそのまま口付けて、一リットルパックの烏龍茶を飲みだした。

   +++

 安達の長演説後の第二視聴覚室は、ある意味で死屍累々だった。他に代替案を、と思っても誰も屁理屈ひとつ思いつかない。せいぜい武辺が「そこまで力入れなくとも、写真と批評パネルだけで十分じゃないの?」と言ったくらいである。だがそれも、
作品名:無効力恋愛 作家名:こまこ