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僕の村は釣り日和1~転校生

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 母が夕飯の支度をしながら、台所から顔を覗かせた。
「今日は友達を連れてきたんだ。ねえ、お父さんの釣り道具が見たいんだって。いいだろ?」
「いいんじゃないの」
 母は父の趣味にあまり口を挟まない。
「お邪魔します」
 東海林君は丁寧に僕の母に頭を下げると、靴を脱いで揃えた。
 僕は冷蔵庫からサイダーを取り出し、戸棚からポテトチップスをかっさらう。すると、母が僕の襟元をムンズとつかんだ。そして小声でささやく。
「ちょいと、あの子、転校生の子だろ? アザだらけだし服はボロボロだし、まさか、お前がやったんじゃないだろうね?」
「違うよ。高田のやつだよ。あいつが因縁つけてケンカになったんだ」
「そうかい。まだ友達も少ないだろうし、親切にしてやるんだよ」
「うん。わかってるよ」
 そして、東海林君と僕は二階にある父の部屋へと向かった。
 父の部屋はいわゆる「趣味部屋」で、釣り道具やキャンピング用品がわんさかと置いてある。家をリフォームする際に「どうしても」と、父親がこだわって作った部屋なのだ。
「おおっ、すげえ!」
 父の部屋には釣竿が何本も立て掛けてあり、戸棚には年代物のリールが並べられている。僕にはその価値がよくわからないが、東海林君は目を皿のようにして見入っている。
「これはガルシアのロッド(竿)じゃないか。こっちはフェンウィック。これは初代のスピードスティック!」
 きっと、マニアにはたまらない竿なのだろう。東海林君は竿の一本一本を食い入るように眺めている。
「なあ、触ってみてもいいか?」
「折らなきゃいいよ」
 ビュッと風を切る音がした。父がいつも竿を振る時の音だ。僕が竿を振ってもこのような音はなかなか出せない。それはおそらく釣りに対する想いに反応して出される音なのかもしれない。
「あれっ、お前のお父さん、トラウトもやるのか?」
「うん。この近辺は渓流が多いからね。イワナやヤマメを狙ってるよ」
「すげえな。トラウトロッドはパームスじゃん」
「お父さんのお気に入りはストリームマスターの66ってやつなんだ。『この竿はいい竿だ』って、酔っ払うといつもうわ言のように言っているよ」
 東海林君の目は戸棚の中にあるリールに移る。