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僕の村は釣り日和1~転校生

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 考えてみれば高田君の家は農家で、ため池の水を抜いた発案者でもある。そんな家で育った彼にとって、ブラックバスは許すことのできない存在なのかもしれない。
 教室の扉のガラスの向こうに人影が見えた。だが不思議なことに、その人影は一向に入ってくる気配がない。
(何やってるんだよ先生。早く止めに入ってよ)
 僕はそう思ったが、先生は動かなかった。
 ゼーゼー、ハーハー……。
 東海林君も高田君もTシャツの襟は伸び、口元から薄っすら血が滲んでいた。
「お前、都会者の割にはなかなかやるな。だがよ、俺はブラックバスなんて絶対に認めねえからな」
 高田君が吐き捨てるように言った。
「認めなくて結構さ。だが俺のすることに口を挟むな!」
 お互いの信念の塊は混ざり合うことなかったようである。
 そこへ、ようやく扉の向こうにいた人影が入ってきた。
「みなさん、おはようございます。騒々しい朝でしたね。物事は落ち着いて考えましょう。頭に血が上ったら、まともに考えられなくなりますよ。そうそう、世の中にはね、答えがいくつもあるっていうことがあるんですよ。小学校の算数なんかは答えが一つしかありませんけどね。さてと、今日の日直は誰だったかな?」
 僕は横に座る東海林君の横顔を見た。唇を噛み締めたその顔はまだ悔しそうだった。
 僕は「大丈夫かい?」と声をかけようとも思ったが、今の彼には慰めにもならないと思ってやめた。
 何となくモヤモヤした一日が過ぎていった。

「なあ、お前のお父さんの釣り道具、見せてくれないか?」
 東海林君が僕にそう語りかけてきたのは、下校間際だった。
「いいよ」
 僕は笑顔で答えた。
 僕の父は隣の笹熊市にある会社まで車で通っている。会社帰りに釣り道具を買ってくることも多い。僕はそれで東海林君の気が少しでも紛れるのなら、父の釣り道具を見せてやりたいと思った。
「本当か? 今日はストレス発散をしたいんだ。目の保養に頼むぜ」
「あまり、いじくりまわさなければいいよ」
「何せこの村じゃ、ルアー用品を売ってないからな。引っ越してくる前は、毎日のようにショップへ冷やかしに行っていたからな」
「この村で釣り道具を売っているって言ったら、雑貨屋の杉本商店くらいかな。それも安物の竿だよ」
 その日は校庭で遊ぶことなく、東海林君と僕は早々に下校した。
「あら、今日は早いのね」