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僕の村は釣り日和1~転校生

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 そう言った東海林君の目は怒っているようでもあり、悲しそうでもあった。
 また、その問いは子供の僕にも素朴な疑問として胸につかえた。
 東海林君はプライヤーでカムルチーの口から針を外すと、そっと池に返してやった。カムルチーは何事もなかったかのように悠々と泳いでいき、濁った水の中へと消えていく。それを二人で見送った。
「俺、明日から他の池でも釣ってみるわ。もしかしたらブラックバスが残っている池があるかもしれないからな」
 そう言うと、はにかむような笑いを残して、東海林君は薮の中へと消えていった。

 それから数日後。
「おい、ブラックバス!」
 ガキ大将の高田君が東海林君をそう呼び付けていた。
「お前、ため池を回ってブラックバスを釣っているだろう? ブラックバスは他の魚を食う悪い魚なんだぞ。そんな魚を釣ってんじゃねえよ!」
 高田君は腕組をして東海林君の机の前に立った。僕は隣でヒヤヒヤしながら事の成り行きを見守るしかなかった。本当ならば東海林君の肩を持ってやりたかったが、何せ相手が悪すぎる。
「お前だって塩サバくらいは食うだろう?」
 東海林君は淡々と言って退けた。
「何だと?」
 高田君の顔が赤くなった。足がカクカクと震えている。
(ヤバイ。キレる前兆だ!)
 僕は肘で東海林君の腕を突ついた。しかし、東海林君はまったく動じない。
「だいたい誰がブラックバスを悪者と決めつけたんだ? 大人が勝手に言っているだけだろう? もともとブラックバスは……」
「うるさい!」
 高田君の拳が東海林君の右頬に飛んだ。東海林君は少し後ろによろけたが、薄笑いを浮かべている。
「そうか、ちょうどいいや。俺もムシャクシャしていたところなんだ。ケンカなら買うぜ」
「来いよ。都会育ちのモヤシっ子!」
 東海林君の体がユラーッと立ち上がったと思ったら、俊敏なパンチが高田君の顔面に炸裂した。
「やりやがったな!」
「このジャガイモ!」
「くそ、ブラックバスめ!」
 二人はなじり合いながら、もつれ、殴り合う。
 教室の男子たちはヤンヤヤンヤと囃し立て、大騒ぎになっている。女子はただ呆然と対極的な二人の対戦を眺めている。手のひらで顔を覆う者もあった。
 後はもう揉みくちゃだった。どちらが優勢とも劣勢とも言えない。お互いの意地のぶつかり合い。そんな感じがした。