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僕の村は釣り日和1~転校生

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 校門を出たのは西の山があかね色になってからだ。僕はあぜ道の赤トンボを脅かすようにして家へ向かった。足元ではバッタやキリギリスが時々、驚いたように跳ねる。
 ちょうど、農業用のため池の手前に来た時だった。ため池のほとりの草むらの中から、棒のようなものが振られるのがえた。
(誰か、釣りをしているぞ)
 僕は駆け寄ってみた。ガサガサと薮をこぎ、ため池のほとりへ出てみると、そこには釣竿を握る東海林君がいた。
「東海林君!」
「よう」
 東海林君の竿は2メートル弱くらいで、手には太鼓型のリールが握られている。東海林さんは夢中でリールを巻いていた。僕はこの道具を見てピンときた。
(東海林君はブラックバスを釣っているんだな)
 東海林君の竿がヒュッと上がった。その釣り糸の先には小魚の形をしたルアー(疑似餌)が付いている。
 よく見ると、東海林君の竿のグリップはコルクが汚れて黒くなり、リールも傷だらけだ。とても小学校六年生が使い込んだ道具とは思えない。
「その竿もリールも、ずいぶんと古そうだね」
「お父さんの形見なんだ。あのフォックスファイヤーのバッグも」
「えっ?」
 僕は一瞬、言葉に詰まった。それでも東海林君は僕の方を向くことなく、またルアーを投げた。
「お父さん、交通事故で死んだんだ。それでお母さんの実家に引っ越してきたってわけさ。俺だってこの土地が嫌いなわけじゃない。俺が生まれたのはここだからな」
 そう言いながら、ひたすらリールを巻く東海林君の横顔に一筋の滴が流れた。それが夕陽に輝き、いつか博物館で見た水晶の原石のように光っていた。何とも悲しい水晶だった。
 僕は何て声をかけていいのか正直なところわからなかった。何とか話題を変えて、つなげることしか思いつかなかった。
「ところで、ブラックバスを釣っているんだろう? だったらここにはいないよ」
「えっ?」
 東海林君が驚いたような顔をして僕の方を向いた。
「ウソだろ? 何年か前にここに遊びにきた時、いるって聞いたぞ」
 東海林君がルアーを拾い上げる。そして絡み付いた藻を丹念に針から取り除いた。そしてまた僕の顔をまっすぐに見た。