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僕の村は釣り日和1~転校生

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 おじいさんが豪快に笑った。母親はまだ東海林君を抱き締めたまま涙を流している。
「今日、僕の家で釣り道具を見ていたんです。そしたら夢中になっちゃって。つい遅くなっちゃいました。済みませんでした」
「いやいや、いいんじゃよ。この村じゃ悪さをするやつはおらんて」
 おじいさんは村人のことをすっかり信用しきっているようだ。それはこの村に長く住んでいるからこそわかるのだろう。
「でもね、正。最近お前、ため池の周りで釣りをしてるだろう? 私はお前が池に落ちて、溺れたりしないか心配で……」
 母親が涙をぬぐいながらつぶやいた。
「ふーむ……」
 おじいさんが腕組みをして真剣な顔付きになった。
「確かにため池の周りはぬかるんでいて危ないな。それに正が狙っているのはブラックバスじゃろう?」
 東海林君が「うん」と呟く。
 おじいさんは玄関の照明を見つめながらため息をついた。
「この村、いや今の世間ではブラックバスは悪者扱いされているからのう。農家のみんなはそれを信じきっとる。そしてブラックバスを釣るやつも白い目で見られる。この小さな村ではなおさらじゃ」
 僕はふと疑問に思った。なぜこんな山間の村のため池にブラックバスがいたのだろうか。
「なぜ、ため池にブラックバスがいたんですか?」
「それはな、十年以上前になるかのう。ちょうどブラックバスを釣るのがブームでのう。誰かがため池にブラックバスをこっそり放したんじゃ。村の者はそんなことはせん。きっとよそ者の仕業じゃな」
 なるほど、と僕は思った。ただこの時まだ、勝手にブラックバスを放流するのが良いことなのか、悪いことなのか、僕にはまだわからなかったが、人間の都合で殺されていくブラックバスの運命に同情せざるを得なかった。
「じゃあ、遅くなりましたので僕はこれで失礼します」
 僕は頭を下げて帰ろうとした。
「ああ、ちょっと待った」
 するとおじいさんが引き留めた。
「転校してきたばかりの正に優しくしてくれてありがとうよ。これからもよろしく頼みます」
 そう言ってザルに一杯のナスとキュウリをくれた。
「ありがとうございます」
 おじいさんはにっこり笑い、母親は少し不安そうな笑いを浮かべて僕を送り出してくれた。

「遅かったじゃない。心配したわよ」
 家に帰った僕を母は心配そうな顔で出迎えた。