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僕の村は釣り日和1~転校生

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「そんな日本の自然にブラックバスは溶け込めないんだろうか? もともと人間がよかれと思って持ち込んだ魚なのに。ブラックバスに罪はないのに」
 そう呟く東海林君の声は秋の虫の声と重なって、どことなく寂しそうだった。僕は思わずそんな彼に同情してしまった。
 
 東海林君の家は僕の家からそれほど遠くなかった。距離にして300メートル程だろうか。古い旧家の作りだった。僕はこの家を知っていた。確かおじいさんとおばあさんの二人暮しだったはずだ。
「ただいま。友達の家に行っていて遅くなっちゃった。ごめん」
 東海林君の声を聞き付けて、彼の母親が慌てて奥から飛び出してきた。本当は綺麗な母親なのだろう。しかし、ずいぶんとやつれて見えた。髪は乱れて、頬のあたりもこけているように思える。
「まあ、正、こんな遅くまでどこ行っていたのよ。それにどうしたの? アザだらけになって、服もボロボロだし……」
 東海林君の母親は口に手を当てて驚きを隠せない様子だ。
「学校でケンカしたんだ。それで帰りにこいつの家で釣り道具を見せてもらってたらさ、夢中になって遅くなっちゃった。ごめんなさい」 
 東海林君は頭をペコリと下げた。しかし、母親はわなわなと震えている。そして東海林君に駆け寄ったかと思うと、思い切り抱き締めた。
「お父さんがあんなことになって、その上、お前の身に何かあったら、私……」
 そこから先は言葉にならなかった。東海林君の母親の目からは大粒の涙がボロボロとこぼれ出していた。
「まあまあ、無事に帰ってきたんだからいいじゃないか。男の子はそのくらい元気がなくちゃ」
 奥から東海林君のおじいさんらしき人が顔を覗かせた。
「それにしても派手にやったもんじゃのう」
 おじいさんも東海林君のアザや服を見て言う。
「ケンカはやり過ぎなければ大丈夫じゃ。わしもガキの頃は派手にやったもんじゃて」
 おじいさんがにっこり笑いながら、東海林君と母親の肩に手を置いた。しわだらけだが、ずいぶんと温かそうな手だった。
「君は桑原君じゃな」
 おじいさんが僕の方を向いて笑った。
「はい、桑原健也です。同じクラスで隣の席なんです」
「そうか、そうか。それにしても大きくなったのう」
 おじいさんが目を細める。
「僕のこと知っているんですか?」
「なーに、この村じゃ2、300メートル先はお隣さんじゃよ」